カズノコ
【東京雑学研究会編】
§ニシンの子をなぜカズノコと呼ぶのか?
お正月に食卓を飾るカズノコは、タンパク質、脂肪、ヨードなどを含む栄養価の高い食べ物である。しょうゆと酒につけ込んだカズノコは、プチプチとした歯ごたえが絶妙で、ふだんは食べられないこともあって、ついつい食べすぎてしまう。
カズノコの正体は、ご存じのようにニシンの卵巣だ。それでは、カズノコは「ニシンコ」でなく、どうして「カズノコ」と呼ばれるのだろうか。
ニシンは各地で「カド」「カドイワシ」などと呼ばれている。ニシンは回遊魚だから、各地で季節に応じて漁獲される。それでたくさんの呼名をもっているのだ。その「カドの子」から転じて「カズノコ」になったのではないかとされている。
ニシンの一腹の卵数は年齢に応じて増加するが、一尾で三万~一〇万粒の卵を持つ。ここからカズノコの「カズ(数)」は、「子孫繁栄」を意味するようになったようだ。これが「おめでたさ」の由縁だ。人もカズノコの「子だくさん」にあやかろうというわけである。すでに室町後期には、ときの権力者の機嫌を取るためにカズノコが納められていたようだ。
カズノコをおめでたい食べ物とする食文化は、元禄時代(一六八八~一七〇四年)頃までには定着した。庶民層でも正月の祝膳に不可欠の食べ物となっていたという。その習慣が受けつがれ、今日でもお正月料理の定番となっているのだ。
また、一説には、めでたくいいかえることによって、食品の格の転換をはかるという、漁師や料理人などの知恵と計算があったから、「カドの子」が「カズノコ」へと変化したといわれている。価格をあげるには、もってこいの戦略である。現在でいうなら、付加価値を高めるとか「ブランド」をつくるということか。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670194 |