火事場のバカ力
【東京雑学研究会編】
§「火事場のバカ力」は本当にあるのか?
「火事場のバカ力」という表現は、ほんとうに火事にあった場合に限らず、日常生活でもよく使われる。普段発揮したことのないような能力で、何かよい結果を招いたときなど、「アラ、火事場のバカ力かしら……?」などとよく言う。ほんとうの火事や地震の現場では、まさに、この言葉どおりのことが起きるという。
必死になって、大切な重いタンスを運び出したり、身の安全を図ろうとして、自分では思いもよらないようなすごい筋力を発揮することがあるという。まさに怪力を出すのである。
人間の筋肉とそのはたらきは、どうなっているのだろう。細長い細胞が束になった筋線維からできている筋肉は、運動神経を通じて伝わった脳からの指令によって、収縮や弛緩を繰り返し、仕事をしている。しかし、日ごろの仕事では、筋肉は一〇〇%の能力を発揮していないそうだ。
重すぎて腰を悪くしないか、骨を折らないかというように、理性的な判断が加わっているからである。つまり、脳から抑制の命令が出て、適度な収縮により、難なくできる範囲のことしかしていないことになる。筋肉の持っている能力の五分の一くらいしか発揮していないそうだ。
ところが、火事や地震の緊急時には、普段の抑制が解除され、筋線維がフル稼働状態になる。さらに、交感神経のはたらきも加わるそうだ。普段は、人間の意志とは関係なく、心臓や呼吸などの働きを維持している交感神経が、筋肉に対しても「もっと働け!」と指令するのだ。
脳からの抑制が解除されると、筋肉は断面積一平方センチメートルあたり、最大一〇キログラムの物を持ち上げる能力があるという。ということは、成人男子で片腕の断面積が平均二五平方センチメートルだから、二五〇キログラム持ち上げられることになる。何と両腕で五〇〇キログラムを持ち上げる能力だ。軽自動車一台分に相当するではないか。
ちなみに瞬間的に発揮される火事場のバカ力に、筋肉痛はともなわないそうである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670193 |