ゲノム編集
【げのむへんしゅう】
生物の細胞核の中のDNAにある遺伝情報(ゲノム)のうち、狙った遺伝子を操作することで遺伝子の破壊や修復、別の遺伝子の挿入などをする技術。従来の遺伝子組み替え技術よりはるかに高い精度で遺伝子を取捨選択できる。
初めて登場したのは1996年、2010年には第2世代が開発されたが、いずれも時間や費用がかかるのが難点だった。2013年に米ハーバード大などのチームが第3世代の「クリスパー/キャス(CRISPR/Cas)」を発表し急速に広まった。
遺伝子組み換えは0.01~0.001%程度の成功率しかなく、対象も限られていた。第3世代のゲノム編集は遺伝子をピンポイントで狙えるようになり、成功率は数%〜数十%と向上。受精卵や微生物にも応用が可能になった。動植物への応用では、肉付きのいい豚、飼育しやすい養殖マグロ、通常より大きなタイ、病原菌に強い稲など、品種改良の研究が進んでいる。
医学分野では、エイズや白血病を対象にした遺伝子治療の臨床研究が始まっている。京都大学は難病患者の体細胞からiPS細胞を作り、ゲノム編集で原因遺伝子を修復するなど、再生医療での利用を検討している。しかし、ヒトの精子や卵子、受精卵への応用は、背の高さや頭の良さ、運動能力などで新生児を設計する「デザイナーベビー」の誕生につながりかねないとの懸念から進んでいない。
しかし、2015年に中国の研究チームが、ヒトの受精卵の遺伝子操作をしたと報告した。米科学誌サイエンスは2015年の「画期的な研究」の1位に、最新のゲノム編集技術を選び、理由の1つに中国の研究チームの報告を挙げた。英科学誌ネイチャーも「2015年の10人」に、この論文を発表した研究者を選んで評価した。一方で「人が神の領域に踏み込んだ」などと倫理面での批判が出て、慎重意見が専門誌に掲載された。
米英中の学術団体は2015年12月の会議で、「社会的合意がされていない」として臨床研究は否定したが、基礎研究は容認した。日本では遺伝子治療の行政指針で受精卵の遺伝子改変の臨床応用を禁じているが、法規制はない。(A:2016/2/8)
| 時事用語のABC (著:時事用語ABC編集部) 「時事用語のABC」 JLogosID : 14425631 |