けもの道
【けものみち】
人類が誕生する前からあった道
道は人類が誕生する前からあったはずである。人が通る道よりずっと昔からあるのは、けもの道と呼ばれる動物たちの通り道で、今も山や丘陵などで見ることがある。登山で遭難する原因の一つに、けもの道の存在が挙げられる。人の歩く登山道と間違えて、山奥深くにまで迷い込んでしまうのである。動物たちは、移動しやすい経路をたどりながら、エサを捜し求めたのだろう。何度も同じ経路をたどっているうちに、草木が踏みつけられて道になる。動物の種類によって、通る経路も異なっていたため、同一の地域内に何本ものけもの道があった。人間の世界でいえば、車道あり、歩道あり、サイクリング道路もあるということだろうか。
外国では、車の通る道路と見間違えてしまうような、幅の広いけもの道もあるという。たとえば、アフリカ象の通る道などがそれである。これらけもの道こそ、人類が誕生する前から存在した世界最古の道といえるのかもしれない。
それはともかくとして、道は人々の暮らしの中から生まれ、発展してきた。人々は生きていくために、木の実を採ったり、海や川へ行って魚を獲ったり、山へ狩猟に出かけたりして食料を確保した。何度も同じところを歩いていくうちに、地面は踏み固められ、そこが道になった。はじめは人ひとりがやっと通れるような細々とした道も、何人もの人が行き来するようになると、だんだん太くなっていく。
やがて人々は、野山を越え、川を渡り、遠くの人とも交流を持つようになる。道は人々が食料を得るための通路としてだけではなく、情報交換の重要な交通路にもなった。
道はこのように、人々が生活していく中から自然発生的に発展していったのである。
| 日本実業出版社 (著:浅井 建爾) 「道と路がわかる事典」 JLogosID : 5060039 |