ひびき感①
【ひびきかん】
「ひびき感」で気を感じる
◆「ひびき感」と痛みは違う
切皮によって針を目的の深さまで刺したあと、手技の操作を行うときに患者が受ける感覚は、主に「得気(とっき)」によるものです。
「ひびき感」ともいわれる得気は、針を媒介にして気をコントロールとしている感触のことで、気を送っている鍼灸師と受けている患者の双方が感じるものです。ただし、鍼灸師の感覚はここでいくら説明しても読者のみなさんに実感してもらうことはできませんから、実際に針治療を受けているときに受けとる感触が得気だと考えてください。
手技では、治療の目的に応じて針に軽い振動を与えたり、小さく回転させるなどの操作を行います。このときに患者は重だるい感じ、電気が走るような感じ、圧迫するような感じ、引っ張るような感じなどさまざまな刺激を受けます。
これが「ひびき感」といわれるもので、治療に慣れていなかったり恐怖心が大きいと、このひびき感を痛さととらえてしまう人がいます。技術の未熟さからくる切皮のときの痛さとはまったく別種の感覚で、むしろ「針治療が効果を発揮している証拠」ともいえる感覚ですから、慣れるしかありません。
中国では「まだ得気が十分こないから、もっと操作して」と患者から鍼灸師に要求することさえあるぐらいで、慣れてしまえば気持ち良さに変わってきます。
◆操作方法は鍼灸師のオリジナル
得気を保って、経絡上の目的の部位へ誘導するための針の操作方法は多数あり、どれをベースに操作するかは鍼灸師の経験や技量によってさまざまです。
たとえば、針にも「補法」と「瀉法」があり、正気を補う針の手技が補法、病邪を取り除く針の手技が瀉法になります。ところが「それでは、痰湿を取り除くための瀉法は具体的にどういう操作なのか」と質問されると、模範解答の示しようがありません。気の操作は意識との関連が非常に強いので、手技の方法は鍼灸師それぞれにオリジナルの方法があるのです。
◆気と無関係の針治療もある
以上のように「ひびき感を得る」というのが、中国における針治療の大原則です。しかし、日本ではひびき感を出すことはせずに、切皮だけという流派があります。これらの流派では、ひびき感を出さない分だけ、1か所の刺激が少なくなりますから、その分、多数の針を打つことになります。そのため、かえって次の日にだるさが出てしまうこともあります。
また、日本で考案された「皮内針」(置き針ともいう)は、体内に深く入っていかないよう頭部にリングなどがついた短い針のことで、これを2~3 mm の深さで刺し、絆創膏などで固定して数日間そのままにしておくこともあります。この場合は、治療中に鍼灸師が針に触れることがないわけですから気とはまったく無関係で、軽い刺激によって患者本人の自己調整力に期待するというような方法だと考えられます。
ちなみに、昔は「埋没針」といって、皮内針のようにストッパーのついていない針を体内に残すという方法が行われていたこともありました。しかし、危険でリスクを伴う割には、よい結果が得られないので、現在ではあまり使われなくなってきています。
| 日本実業出版社 (著:関口善太) 「東洋医学のしくみ」 JLogosID : 5030097 |