振袖
【東京雑学研究会編】
§結婚した女性が振袖を着てはいけないわけ
振袖は長いたもとに華やかな模様を染めたり縫い取ったりした、高価なおしゃれ着だ。帯や草履まで含めて何十万はかかってしまうけれど、若い未婚女性だけが着ることができる着物だから、今も成人式の前は呉服店や貸し衣装屋では振袖が引っぱりだこ。
ではどうして結婚してしまうと振袖を着ることができなくなってしまうのだろうか?
昔は、女性が男性からの告白や求婚に対してはっきりとした言葉や態度で意思表示するのは、とてもはしたないこととされた。もちろん、女性の側から積極的にアプローチするなどとんでもないことだったのだ。
とはいっても、女性が男性を好きになってしまうのは、ごく自然な感情。
そこで、未婚の女性の側から好きな男性に対して言葉以外の方法で、それとなく意思表示する方法があみ出された。それが「袖を振る」ことだった。
たもとを左右に振ると「あなたが好きなの」で、前後に振ると「嫌いだからつきまとわないで」。
今でも、「カレシを振る」「カノジョに振られた」という言い回しがあるが、これはその昔、女性が振袖のたもとを振って男性に意思表示していたことからきた言葉なのだ。
結婚した後は、夫以外の男性にもってまわった恋愛の意思表示をする必要もなくなる。だから結婚した後の礼装は振袖ではなく、たもとの短い留袖を着ることになるわけだ。昔の女性にとって結婚が遅いことは大変な恥だったから、結婚後は積極的に留袖に着替えて「私は既婚なの」とアピールする習慣になっていった。
ちなみに、留袖の語源は、女性が元服するとき、振袖の袖を切って短く留めたことに由来している。
現代の結婚式では、振袖を着るのは新婦だけで、黒留袖を既婚女性の礼装とし、色留袖を未婚女性の礼装としているが、地方によっては未婚の若い女性なら新婦以外でも振袖を着る場合も多いようだ。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670845 |