フグ刺し
【東京雑学研究会編】
§フグ刺しはなぜ薄い?
養殖ものなら、サラリーマンでも手を出せる値段でメニューに載せている居酒屋もなくはないが、やはり天然ものを高級料亭で、煮こごりから白子ポンズ、刺身、から揚げ、鍋、最後には雑炊とフルコースで食べたいのがフグ。
そのときは財布の大出血を覚悟しなければならないが、そんな高級魚らしく、刺身はごく薄く切ってきれいに並べられ、下の皿の絵柄が透けて見えるくらい。一度に一枚か二枚、ネギを巻いてもみじおろしとポンズでちまちま食べるのでなく、ブツ切りのマグロみたいにガブリとやりたい! ……というのは、フグの価格に幻惑されての思い違いで、ほんとうは最もフグをおいしく食べてもらうための、料理人の腕の見せどころが、このフグの薄造りである。
食用にされるフグは、いちばんおいしいとされるトラフグをはじめ、サバフグ、ショウサイフグなどがあるが、いずれも身がしまっていて硬い。分厚く切ったのでは、口の中でモゴモゴさせるばかりで噛み切れず、味わうどころではないのである。
薄くそぎ切りにしてあるからこそ、コリコリした歯ごたえを楽しみ、楽に噛み切ることができるのだ。
同じようにコリコリした歯ごたえで、刺身に添えられている皮の下のゼラチン質の部分は、「とおとうみ」と呼ばれているが、これは三河(身皮)の隣が遠江というしゃれだ。関西でフグのちり鍋のことを「てっちり」というのも、毒に当たると死ぬところから、弾に当たると死ぬ鉄砲からのもじりである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670818 |