ドストエフスキー②
【東京雑学研究会編】
§『罪と罰』を最初に読んだ日本人
ドストエフスキーの長編小説『罪と罰』を、日本で最初に読んだのは誰だったのか。
一八六六(慶応二)年に発表された『罪と罰』が日本に入ってきたのは、その約二〇年後の一八八七(明治二〇)年であった。この英訳本をいち早く入手したのは、東京・日本橋の丸善。そのとき入荷されたのは、たったの三冊であったらしい。
そして最初の一冊を買ったのは、当時二六歳の坪内逍遥だった。したがって、彼が『罪と罰』の日本人最初の読者であるとされている。
まだ読んでいない方のために、簡単な筋書きを紹介しておこう。
貧しい大学生ラスコーリニコフは、選ばれた強者は、常識的な道徳など無視してもいい権利が与えられているという思想から、金貸しの老婆を殺してしまう。だがその日から彼は、日夜、罪の意識にさいなまれる。やがて、自己犠牲に身をささげる娼婦と知り合い、彼女の生きざまに心打たれたラスコーリニコフは、いっさいを告白して自首するのだ。
キリスト教的愛の思想と、人間回復への痛切な願望とをこめた、ドストエフスキーの代表作ともいえる力作である。
『小説神髄』や『当世書生気質』といった作品を刊行していた坪内逍遥は、この英訳本にどんな感想をいだいたのだろうか。
さて、丸善に入荷した『罪と罰』の残りの二冊であるが、坪内逍遥のあとに買ったのは、『一五少年漂流記』の翻訳者・森田思軒。そして三冊目は、後に『罪と罰』日本初の翻訳者となった内田魯庵が購入したということだ。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670676 |