ドストエフスキー①
【東京雑学研究会編】
§妻の名前も忘れたドストエフスキー
ドストエフスキーはロシアの小説家で、『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』などで有名だ。
若い頃から「人間の秘密」の解明を自らの文学の主題としていた。体制批判の秘密結社に加わって逮捕・流刑を体験し、『貧しい人たち』『分身』で文壇に登場してから後は、秘密結社内部の同士殺害や父殺しなどの異常な題材を描き続けた。ドストエフスキーは当時のロシアを病人、死産児と称し、その病人が「新しいエルサレム」「生ける生」、つまり全ての人が友人として愛しあう世界に憧れているものとした。
しかし、この偉大な文豪・ドストエフスキーには、もの忘れがひどいという、やっかいな癖があり、時には妻の名前すら忘れてしまうほどだったという。
ある日、ドストエフスキーにとって見覚えのない女性が彼のもとを訪ねてきた。
「どんな御用件でしょうか?」
と彼が聞いても、女性は何も答えない。
「私のこと、わかりませんか?」
と彼女が聞いても、ドストエフスキーはわけがわからずイライラするばかり。
「今、忙しいんです。ナゾナゾをしてる暇はありません」
そういわれて、女性はショックを受けた様子で、そのままドアを開けて立ち去ってしまった。
しばらくは訳がわからずにいたドストエフスキーだが、そのうちに彼女のことを思い出した。なんと彼を訪ねて来た女性はドストエフスキーの昔の愛人だったのだ。これでは、女性がショックを受けて深く傷つくのも当たり前だ。
愛人だったとしたらドストエフスキーのもの忘れの激しさくらいはわかっていただろうが、自分の顔や名前まで忘れられてしまってはさぞかしショックを受けたことだろう。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670675 |