診察
【東京雑学研究会編】
§診察のとき医師が胸をたたくのは?
病院の内科の診察室。医者が聴診器を胸や背中にあて、音を聴く。あるいは、自分の指を患者の胸や背中にあて、その指の上からもう一方の手の指でトントンとたたいては、その音に耳を傾ける。おなじみの診察風景である。
あの指でトントンとする診察法は「打診法」と言われている。たたいた結果は、専門的には、打診音増強とか打診音減弱という言葉で表される。要するに、たたいた音の響きが澄んでいるか鈍いかで、内部の異常を察知し、判断しようというもの。
この方法は、一七六一年にオーストリアの医師、ヨセフ・レオポルド・アウエンブルッガーにより考案された。彼は、グラーツに生まれ、ウィーン大学で学んだ。彼がウィーンのイスパニア病院に勤務していたとき、「胸壁をたたいて胸腔内部にかくれた病気の徴候を見つけるための新考案」を公表し、打診法を創始した。当時は、片手の指で胸壁を直接たたく簡単なやり方だった。
この打診法が普及し始めたのは、一九世紀のはじめであった。パリ学派の巨頭と言われた、コルビザール・デ・マレが推奨したという。
ところで、アウエンブルッガーの実家は、居酒屋をかねた宿屋であった。酒蔵にある酒の残量を確かめるのに、酒樽をたたく方法がとられていた。樽に入っている酒の量により、音が変わるのである。
物体には固有の振動数があり、それは、形状や材質によっても変化する。この原理を応用して、彼は打診法を編み出したといわれている。
これは、彼の音感のよさも手伝ったかもしれない。というのは、彼は音楽が好きで、よく知られた作詞家でもあったのだから。さすがは音楽の都ウィーンの医者である。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670489 |