ラムの基礎知識
歴史と概要
世界のほとんどの蒸溜酒は、もともと土地で育つ穀類や果物などを原料に、多くが自然発生的、あるいは偶然に生まれた。唯一ジンは薬用として意識的に造られたものだが、それでも原料や香料はもとからあったライ麦やジュニパーベリー(ネズの実)である。そんな蒸溜酒の世界で、特異な誕生秘話を持つのがラムだ。
カリブ海の島々(西インド諸島)や中米、南米北部で造られるこの酒は、サトウキビを原料とするが、これらの地域にはもともとサトウキビはなかった。この地を16世紀頃から植民地として支配した西欧諸国の思惑で持ち込まれ、ラムが生まれるのである。
持ち込んだ理由が悲しい。宗主国に利益をもたらす目的でサトウキビを栽培。その労働力としてアフリカから奴隷を移住させるが、奴隷売買の資金にしたのが、サトウキビからできるラム酒だったというのだ。人を救うための「命の水」と呼ばれた他の多くの蒸溜酒に比べ、少々重い歴史である。ただし、ラムの語源は「ランバリオン(乱痴気騒ぎ)」とか。ラテン系のノリ、開放的な雰囲気を感じさせる命名に、わずかだが救われる気がしないでもないが……。
さて、ラムが生まれたのは17世紀頃。製法を導入した起源はスペイン人説、英国人説などいくつかあり定かではないが、18世紀にはヨーロッパに広まったようだ。同時に西インド諸島で始まったラム製造は周辺国に伝播していった。ヨーロッパでは特に英国海軍の常備酒となり、なかでも機関室の兵たちを鼓舞するために大きな役割を果たしたという。
原料と製法
前述のようにラムはサトウキビが原料。ヨーロッパの蒸溜酒製法がベースということもあり、製造工程はそれらとほとんど変わらない。ただし、各島(当時は各植民地)では宗主国(英国、フランス、スペイン)の製造技術によって若干の違いがあり、それが現在の種類の違いとなっている。色合いと風味によってそれぞれ3種類に分けられるのが一般的で、色ではホワイト・ラム、ゴールド・ラム、ダーク・ラム、風味ではライト・ラム、ミディアム・ラム、ヘビー・ラムとなる。
まず色だが、ホワイトは無色透明、ゴールドはホワイト・ラムにカラメルなどで色づけしたもの。ダークは樽で熟成したものだが、さらにカラメルで色づけし褐色に仕上げたものも多い。風味では、連続式蒸溜器が使われるようになった19世紀後半から登場するライトは、軽い芳香が特徴。短期間樽熟成することでゴールド・ラムに、蒸溜後活性炭で濾過すればホワイト・ラムになる。ミディアムは、フランスの植民地で生産されたタイプで中間的な香り。ライト・ラムとヘビー・ラムをブレンドすることが多く、色は様々だ。ヘビーは文字どおり強い芳香が特徴。樽熟成の年数の長いものがダーク・ラムとなるが、さらにカラメルで着色するものもある。
ところでラムといえば、最近の人気映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(初作は2003年)で、ジョニー・デップ演じる海賊船の船長はじめ船乗りたちが、何度となくラムをあおるシーンが登場する。前述の英国海軍が常備酒としたように、当時の船乗りには欠かせない酒だったようだ。この映画のおかげで、英国では一大ラムブームが起こり、3割も消費が増えたという。ちなみに日本では微増とか。
| 東京書籍 (著:上田 和男) 「洋酒手帳」 JLogosID : 8515635 |