消雪パイプ
【しょうせつぱいぷ】
雪国で生まれた道の工夫
渋滞とともに、交通の大きな障害になっているものに雪がある。北陸地方は日本有数の豪雪地帯だ。積雪量も太平洋沿岸の比ではない。そのため、道路交通がマヒすることも少なくなかった。屋根から下ろされる雪で道路は埋もれ、車はおろか、人さえ通れないという有様だ。
この雪を何とかできないか。こうもたびたび雪のために経済活動が停止しては、町の発展はありえない。この危機意識から生まれたのが消雪パイプであった。消雪パイプの発案者は諸説あるが、一応「柿の種」で有名な浪花屋製菓の創業者で、新潟県長岡市議でもあった今井与三郎氏だといわれている。井戸から温かい地下水(一三℃)を汲み上げ、それを散水して雪を溶かすといった単純なものだが、これを公道に設置することを訴え、実現させたのが今井氏だったのである。昭和三六年のことであった。
長岡市は昭和三八年一月三〇日、三m一八㎝という観測史上最高の積雪を記録した。何しろ三m以上の積雪である。長岡市は完全に雪の中に閉ざされた。家から外へも出られない。ところが、消雪パイプを設置した三・七kmの道路だけは、黒々としたアスファルトの路面が現れていた。消雪パイプの威力に誰もが驚いた。
消雪パイプは急速に普及した。北陸の各県、そして東北にまでも。今や雪国の救世主になった感さえあり、幹線道路のほとんどに消雪パイプが設置されている。しかし、消雪パイプにも新たな問題が浮上した。地下水の汲み上げによる地盤沈下である。それを食い止めるために、最近はコンピューターによって、地下水の汲み上げをコントロールしている。
全国の商店街で見られるアーケード、いわゆる屋根つき商店街も、雪国に住む人々の生活の知恵から生まれた雁木(がんき)にヒントをえたものだ。雁木とは、民家の軒下から道路に向かって突き出した庇のことで、雁の群れが空を飛んでいる様子に形が似ていることからこの名がある。
雁木で有名なのが、豪雪地帯で知られる上越市(新潟県)と、青森県の津軽地方だ。津軽ではこみせ(小見世)と呼んでいる。上越市の雁木は、すでに江戸時代からあったという。街道筋や商人町、職人町など町家が軒を連ねているところにつくられ、積雪時の生活路を確保していたのである。
機械の力で除雪が行われる現在、雁木の存在価値は低下し、その多くを失ってしまったが、それでも古い町筋には、今もかっての姿をとどめ、美しい景観を見せてくれる。
ところで、雁木の下は公道だと思われがちだが、実は私有地なのである。私有地を地域の共有財産だとして無償で提供し、他人にも自由に利用させているのだ。歩道に商品を陳列したり、盆栽を並べたりして公道をわが物顔で使っている人たちには、到底真似のできない心の広さ、優しさである。
雁木は採光が悪いなどの問題点はあるが、先人たちが築いた文化遺産であり、上越市の誇りとして保存する動きが高まっていることは喜ばしいことだ。
| 日本実業出版社 (著:浅井 建爾) 「道と路がわかる事典」 JLogosID : 5060091 |