田園都市構想
【でんえんとしこうそう】
ヨーロッパからやってきた都市が東京にある?
碁盤目状の街路が東洋的な道の文化なら、放射状に伸びる街路は、西洋の道の文化だといえる。ヨーロッパの都市には、中国や日本の都市のような碁盤目状の街路はほとんどない。広場を中心に、道路が放射状に伸びているのがヨーロッパの都市の特徴である。三角形の二辺より対角線の方が短い。碁盤目状より放射状の道路の方が、より機能的だというのが、西洋の街路に対する考え方なのだろう。
だが、碁盤目状より放射状の方が優れた街路だとはいい切れない。計画的に建設された都市として知られるアメリカの首都ワシントンは、碁盤目状に張り巡らされた街路に、道路が対角線にも走っている。双方の長所を取り入れたのである。北海道の帯広市が、碁盤目状の街路に斜めにも道路が走っていることから、ワシントンをモデルに建設されたといわれている。
日本の首都東京も、皇居を中心に放射状に道路が伸びているが、決して西洋の都市をモデルにしたというわけではない。江戸城の外堀が丸みを帯びていたことから、今のような街路になったのだろう。その東京に、ヨーロッパの道の文化をそっくり取り入れて建設した町がある。高級住宅地で有名な田園調布である。今ではすっかり東京の一部になってしまったが、建設された当初は、独立した一つの都市だったのである。
田園調布は大正時代に、渋沢栄一が中心となって、イギリスで提唱された田園都市構想をモデルに建設した理想都市であった。都市の外側を田園や緑地帯で囲み、企業も誘致し、交通渋滞や公害のない、住環境に優れた都市を建設しようというものだ。田園調布の駅前広場を中心に放射状に伸びる道路は、当時の名残りである。
| 日本実業出版社 (著:浅井 建爾) 「道と路がわかる事典」 JLogosID : 5060078 |