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標準治療コラム > 歯科・口腔外科

バージャー病の原因は歯周病菌だった
【ばーじゃーびょうのげんいんはししゅうびょうきんだった】

 手足の血管が詰まって起こる閉塞性血栓血管炎をバージャー病ともいいますが、この病名は、1900年代初頭から詳しく報告したLeo Buerger(ビュルガー)(オーストリア、米)の名にちなんで命名されています。昭和時代の喜劇王と呼ばれた役者エノケンこと榎本健一が、この大病で右の下肢を切断しましたが、義足をつけて見事にカムバックしたことで当時の話題をさらったバージャー病(英語読み)(ビュルガー病=ドイツ語読み)は、現在わが国の難病として特定疾患に指定されています。東南アジアにおいては今でも多くの患者さんが発生し、依然として肢切断にいたる重傷者がみられます。かつてはわが国でも何万人もいた患者さんですが、年々減り続けてきて、現在では約1万人の患者さんがいると推定されています。
 この病気の原因は、長年にわたって喫煙あるいは自己免疫不全とされてきました。しかし、2005年の6月27日に東京医科歯科大学の医学部歯学部合同のバージャー病研究班の成果として、血管・応用外科学の岩井武尚教授などが記者会見を開いて発表し、アメリカ血管外科学会などの公式会誌に「バージャー病患者の閉塞動脈内に口腔細菌(和訳)」として掲載され、世界的に極めて高い評価を得ました。
 この論文の結論の最も重要な点は、今まで病因不明の難病であったこの病気の病変部から口腔内常在菌の1つであり、誰の口にも存在するといえる歯周病菌を同定したことです。そして、患者さんの歯周病は中等度から重症であったことから、バージャー病の発症・増悪が歯周病菌の慢性感染によると考えられる根拠を明らかにしました。
 ところで、ここ数年わが国の患者さんが減り続けていることですが、この患者さんが減り始めた時期はちょうど経済の高度成長時期に一致しています。このことは、経済的にゆとりが出た国民が歯磨きに熱心になり、国民がみな自分の歯ブラシを持つようになりました。そして、1日1回しか歯磨きをしなかった人の多くが2回、3回と回数を増やし、口腔清掃用具も歯ブラシ以外のフロスや歯間ブラシなど種類も多くなり、歯磨剤に歯周病対策の薬剤が混入されたものが普及したのです。
 口腔内から咽頭にかけての常在菌は、成人では数百種類も存在し、その多くはどんな作用をしているのか不明なマイナーな存在ですが、そのなかの極めて少数のものについては、血管の内皮細胞内に侵入し、バージャー病以外の動脈病変を起こすことが報告されています。培養されにくく、抗生剤にも抵抗する扱いにくいこれらの細菌をどうコントロールするかが今後の課題でしょう。 (指宿真澄




寺下医学事務所 (著:寺下 謙三)
「標準治療」
JLogosID : 5036635

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編集:寺下 謙三
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