歯の喪失もアルツハイマー型認知症(痴呆)の危険因子
【はのそうしつもあるつはいまーがたにんちしょう(ちほう)のきけんい】
在宅介護で認知症(痴呆)の肉親のお世話をしている人の多くは、自分が年をとった時にボケないことを身をもって祈っています。老人性認知症は、個人の問題から家族へ、そして社会の問題となりました。わが国の1980年頃の統計では、在宅老人における認知症の出現率は75歳を境に急増します。この老人性の認知症は大別して脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症に分けられます。その頃までの統計では、脳血管性のほうがアルツハイマー型よりおよそ3倍も多く、日本人にはアルツハイマー型は少ないといわれていました。しかし最近では、アルツハイマー型が増えてきたとか、この2つは画然と区別できないのではないかといわれています。
脳血管性のほうは原因が一応わかっているのに対し、アルツハイマー型はまだ原因不明といわれています。アルツハイマー型の認知症は、いまや世界中の実力ある研究者のしのぎを削るところとなり、学者の功名心、先陣争いから研究成果を捏造(ねつぞう)したスキャンダルまで出ています。
アルツハイマー型は、人以外の動物には出ないところから、実験動物での研究ができないことがこの病気の原因や治療法の発見を遅らせている最大の理由でしょう。そこで、いろいろ説はあっても、直接原因とする決め手がないままに集団健診などで得られた検査結果から、たとえば頭を使わない生活をするといった危険因子がいくつか挙げられてきました。
1990年になって、EC(ヨーロッパ共同体)の認知症研究グループがWHO(世界保健機関)とNIA(アメリカ老化研究所)が共同研究を行って、それまでどの研究者も気づいていなかった歯の喪失が、アルツハイマー型認知症の危険因子の1つであると発表しました。その後、北海道大学の医学部の研究でも、同様な結論を導き出しています。また、東京都老人医療センターと東京都老人総合研究所の調査結果でも、健康な老人はよい歯をしているといっています。ここでいうよい歯とは、自前の歯はもちろんですが、抜歯してもその後を放置せず、よく噛める義歯やブリッジを入れて普通の食事をとっている状態です。咀嚼という顎の動きが脳や全身によい刺激となっていることがうかがえます。 (指宿真澄)
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5036633 |