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標準治療(寺下医学事務所)コラム > 消化器

ラジオ波焼灼術
【らじおはしょうしゃくじゅつ】

ラジオ波焼灼術

■■肝ガン治療の特殊性――非外科的治療が重要な役割を担う■■
 肝ガンは病変が多発していることが多く、また、患者の80%以上は肝硬変を合併しているため、外科手術の対象となる症例は限られています。
 切除できるのは、肝機能が良く、ガンもあまり進行していない20~30%の症例です。また、切除しても80%が5年以内に再発します。これは、超音波やCT、血管造影などの検査をしても見つからないような小さなガンが手術前にすでに存在し、それが大きくなって検出されたり(微小転移)、手術をしても肝ガンを生み出した肝硬変が治るわけではなく、新たなガンが発生する(多中心性発ガン)ためです。
 このため、ガンを栄養する動脈をゼラチンでできた物質で閉塞してガンを兵糧攻めにする肝動脈塞栓術や、アルコールを注入してガンを破壊するエタノール注入などの非外科的治療が重要な役割を担ってきました。

■■根治性があり、侵襲が少なく再発時の対応も容易なラジオ波■■
 非外科的治療の中でも注目を集めているのがラジオ波です。ラジオ波は、超音波でガンを確認し、皮膚を2~3mm切って直径1.5mmの電極針をガンに挿入、高周波を流して熱を発生させ、ガンの部分をピンポイントで焼き切る治療です(図1:ラジオ波施行光景。超音波で観察しながら皮膚を通してガンに電極を挿入する)。治療時間は20分~2時間です。治療後4時間はベッド上で絶対安静ですが、当日から食事ができ、翌日には歩くことができます。CTを撮りガンが残る可能性があれば、2、3日後に追加治療を行います。80%の患者さんは10日以内に退院できます。重労働でなければ退院後すぐに仕事に復帰できます。
 100度に熱せられればガンが生き残ることはありません。一方、肝臓へのダメージは最小限で済み、全身麻酔や開腹手術が不要なため体全体の負担も少ない治療法です。肝硬変や合併症、あるいは高齢で外科手術が困難な患者さんでも治療可能です。また、ガンが再発した場合でも再治療が容易です。
 ラジオ波は急速に普及し、全国1,400施設以上で行われています。ただ、簡単な治療に思えるため安直に行われることもあり、成績にばらつきがあります。今後、正しい技術を普及させ、全体のレベルアップを図る必要があります。治療を受ける場合には、実績のある施設を選ぶことが重要です。

■■ラジオ波の適応■■
 ラジオ波の一般的な適応は、下記のとおりです。
 [1]肝ガンが切除できない、または患者が外科的切除を希望しない。
 [2]血管の中にガンが入っていない。
 [3]肝臓以外にはガンがない。
 [4]著名な出血傾向がない。
 [5]コントロール不能の腹水がない。
 ガンの大きさと数に関しては3cm以内、3個以下が一般的ですが、上級者が担当し、肝機能が良好で、患者が協力的ならば、ガンが3cmより大きくても4個以上あっても治療が可能な場合があります。なお、ガンが肝臓の深い部分にあったり、血管や胆嚢(たんのう)、消化管などのそばに存在する場合には、合併症が起こりやすいので、確かな技術のある施設で治療を受けるべきでしょう。横隔膜の直下にガンがある場合も、人工胸水や人工腹水の技術がある施設ならば治療が可能です。

■■ラジオ波の成績■■
 東京大学医学部附属病院(東大病院)はラジオ波の分野で世界一の実績があります。延べ7,500例以上の肝ガンにラジオ波を実施しています。心臓、胆嚢、消化管に接してガンが存在したり、横隔膜直下や肝臓の尾状葉(びじょうよう)にガンが存在した症例も数多くありますが、99%以上でガンの残存なしと最終的に判定されています。ガンが残存すれば、完全壊死するまでその部位を狙ってラジオ波を追加しているため、これはある意味で当然の結果です。治療回数は平均1.3回、入院期間は平均8日間でした。QOL(生活の質)を落とさない治療法です。
 それまで他の治療を受けたことのない肝ガン患者1,170例で検討すると、ラジオ波後の生存率は、1年96.6%、3年80.5%、5年60.2%、7年45.1%、10年27.3%で、5年以上の生存は325例でした。最大径が3cm以内で病変数1個、肝機能が保たれている(Child A)症例では、生存率は1年98.7%、3年90.1%、5年74.0%、7年57.4%、10年41.3%でした。
 全国成績では、ラジオ波で治療された肝ガン9,643例の生存率は1年95.0%、3年76.7%、5年56.3%、7年39.3%です。一方、肝切除25,066例の生存率は1年88.2%、3年69.5%、5年54.2%、7年42.0%、10年29.0%です。2つの治療法では、患者の年齢、肝機能、病変数、病変の大きななどの背景が異なるため、単純な比較はできませんが、ほぼ同等の治療成績と考えられています。
 合併症として、出血、肝膿瘍(かんのうよう)(治療により壊死した組織に感染し膿〈うみ〉がたまること)、消化管穿孔(せんこう)(消化管の壁が熱で傷害され穴があくこと)などがありますが、他の治療法よりも安全とされています。播種(はしゅ)(ガン細胞が電極の穿刺膿〈せんし〉経路に広がること)が起こることは最近はまれです。

■■転移性肝ガンに対するラジオ波■■
 ラジオ波は転移性肝ガン等にも有用です。アメリカでは、肝ガンよりも大腸ガンの肝転移に多用されています。転移性肝ガンでは、切除可能例は10~30%とされています。また、切除が行なわれても5年の無再発生存率は20%です。それにもかかわらず、治療の第一選択は肝切除とされてきたのは、肝切除以外の治療では5年以上の長期生存は困難とされてきたためです。
 東大病院では、転移性肝ガンでもラジオ波治療後10年以上の長期生存がみられています(図2a、図2b)。大腸ガン肝転移151例にラジオ波を実施しましたが、その中には81歳以上が16例(11%)ありました。また、肝転移に対する初回治療として当科でのラジオ波が実施されたのは32例(21%)に過ぎず、残りは以前に全身化学療法87例(58%)、肝切除43例(28%)、動注化学療法23例(15%)などを受けており、他の治療で効果がないため、あるいは再発したためラジオ波を受けた患者さんでした。また、151例中51例(34%)では、肺転移、リンパ節転移、腹膜播種、大腸ガンの局所再発など、肝外病変が認められました。
 151例全例の生存率は1年93%、3年60%、5年38%、7年27%、10年24%でした。10年生存者2例の年齢は94歳と87歳ですが、このことからもわかるように、長期生存がむずかしい患者さんが多いにもかかわらず、治療後の生存率は良好です。なお、当病院では、進んだ大腸ガン肝転移の患者さんにもラジオ波と化学療法を併用して治療を行っています。

■■ラジオ波10年間の実績と今後の展望■■
 10年間の治療成績から、ラジオ波を適切に行えば、局所的根治、長期生存が可能なことは、肝ガンだけでなく大腸ガンや胃ガンの肝転移でも確認されています。再発を早期発見し、低侵襲治療を繰り返すという治療戦略は、肝ガンだけでなく大腸ガンの肝転移などでも有効です。
 造影剤を注入して血流を評価する造影超音波や、CT画像などと超音波画像とを組み合わせて評価する「フュージョンイメージング」などの新しい技術を導入することにより、ラジオ波はさらに進歩していきます。 (椎名秀一朗




日本医療企画 (著:寺下 謙三)
「標準治療(寺下医学事務所)」
JLogosID : 5036571

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