外傷性鼓膜裂傷
【がいしょうせいこまくれっしょう】
Injury Of The Tympanic Membrane
鼓膜は耳に入ってくる音を振動に変換し、耳小骨経由で内耳に伝える働きの他、外耳と中耳を境界する役目をしている器官です。その構造は、直径約9mm、厚さ0.1mmの薄い膜状で耳の入り口から約3cmのところに位置しており、外耳道のほうに向かって開いたパラボラアンテナのような形態をしています。この鼓膜が何らかの外力で破れてしまうのが鼓膜裂傷(外傷性鼓膜穿孔〈せんこう〉)です。
体の中には、いくつかの膜状構造物がありますが、鼓膜は常に外界に交通しているため、外力に弱い器官といえるでしょう。鼓膜裂傷が発生するのは、鼓膜に対する外からの力の伝わり方によって、直達性外力によるものと介達性外力によるものとに分類されます。
直達性外力による鼓膜裂傷は、鼓膜に直接力が加わった場合、たとえば、耳かきを誤って奥に入れてしまったりすると起こります。この直達性鼓膜裂傷は鼓膜を破ってしまうだけでなく、耳小骨、顔面神経管、骨迷路に達してしまう危険があり、内耳性難聴、顔面神経麻痺を合併することがあります。
介達性外力による鼓膜裂傷は、耳に何かがぶつかることによって外耳道の急激な圧上昇が起こり、鼓膜がその圧変化に耐えられなくなり孔(あな)があきます。具体的には、耳介部の平手打ちや、スポーツ中にボールが耳に当たったりすると起こります。また、頭部外傷によっても介達性鼓膜裂傷を起こしますが、内耳振盪(しんとう)症、耳小骨連鎖障害、髄液漏(ずいえきろう)が合併することが多く、一般に重症になります。
鼓膜裂傷の症状は直達性にせよ介達性にせよ難聴、耳鳴り、耳閉感などが出現します。
《年齢による頻度》
[1]小児
いたずらで小枝を耳に入れる、親が子どもの耳掃除を行い誤って傷つける、また、親の耳掃除のまねをして起こる直達性鼓膜裂傷が多くみられます。
[2]10歳代
球技、水泳などのスポーツ中に偶発的に起こるもの、暴力により起こるものが多くなります(介達性鼓膜裂傷)。
[3]20歳以降
自分で耳掃除をしていて子どもが手にぶつかった、耳を平手打ちにされ破れた(右手で殴られるために、圧倒的に左側の鼓膜損傷が多くなります)、スポーツ中にぶつかった、など直達性と介達性外力の割合が半々になります。
《鼓膜再生のメカニズム》
鼓膜は外耳道側から上皮層、固有層、粘膜層からなる3層構造をしています(図1:正常鼓膜構造の断面)。いったん鼓膜が破れると、生体の修復機構が働き、まず上皮層の増殖が開始されます。次に固有層と粘膜層の修復が開始されていきます。この際に、上皮層が内側に入り込んでしまい、固有層、粘膜層の再生の邪魔をしてしまうことがあります(図2:穿孔鼓膜の断面)。
こうなると鼓膜にあいた孔はふさがらなくなってしまいます。上皮層がめくれ込んでいるかどうかは顕微鏡で観察するとわかるので、このような状態が確認された場合は孔の縁を薬や針を使って取り除く必要があります。
さらに、滅菌された薄い紙、キチン膜、ゼラチンスポンジなどを鼓膜表面に貼りつけて鼓膜の再生を促進します。
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5035464 |