慢性硬膜下血腫
【まんせいこうまくかけっしゅ】
Chronic Subdural Hematoma
大別して、小児と成人の慢性硬膜下出血がありますが、ここでは日常の診察で見受けられることが多い、成人の慢性硬膜下出血について話を進めます。慢性硬膜下出血は、適正な脳外科的治療により、完全に元の状態に戻る数少ない疾患で、脳外科医にとっては今どき珍しい? 患者さんに感謝されることの多い、職業冥利(みょうり)に尽きる病気の代表的なものです。
脳実質を包む膜には、3種類あります。頭蓋骨に近いほうから、硬膜、くも膜、軟膜ですが、この硬膜の内(下)側に血液が貯留し増大していく疾患が慢性硬膜下出血です。硬膜最(内)下層に存在する洞様層(sinusoid channel)は、血管に富み繊維芽細胞の新生も強く、血腫の増大、被膜の形成機序には、その洞様層の活動性が大きく関与しているようですが、詳しいことはいまだわかっていません。エストロゲンはその活性を抑制するといわれており、この病態が女性に少ない根拠と考えられています。数週間から2~3カ月さかのぼる、患者本人も憶えていないほど軽微な頭部打撲や肝機能障害(主に長い飲酒歴)、そして脳梗塞や不整脈の治療や腎透析などで頻繁に投与される抗凝固、抗血小板剤が誘因となっている症例もあります。脳萎縮や硬膜下水腫が元から存在する高齢者に発生頻度が高く、最近、老年人口の増大につれ、この疾患の発生率は高くなっています。一般の肝機能検査(GTO、GPT、γ-GTP等)では正常範囲内のことも少なくありません。飲酒量を聞いたほうが診断に有用かもしれません。このように傾向がわかっていても実際に患者さんを前にすると、意外と診断は難しい病気です。
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5035036 |