フロイト
【東京雑学研究会編】
§フロイトは実は自分が神経衰弱だった!
精神分析学の創始者で名高いフロイトは、一八五六年生まれのオーストリアの精神医学者である。神経症の研究から、夢や、一般の心理現象の無意識の動きをさぐる深層心理学を確立、精神分析学の基礎を作り、多くの分野に影響を与えた。同時に神経症治療の技法を打ち立てたのもフロイト。その優れた理論は、さまざまな患者の治療に役立ったという。
ところがこのフロイト自身、実は心もからだも相当病んだ医者であったようだ。
彼は、真の精神医学は医者自身が患者になり、その精神状態を知ってこそ生まれるものと確信していた。もちろん、むりやり患者になろうと努力したわけではない。現実にフロイトは、強度の神経衰弱だったのだ。自らの患者としての苦しみが、そのまま、優れた理論に結びついたのかもしれない。
さらに肉体的障害として、心臓の不整脈に苦しんだという。大きな原因は葉巻だった。
彼は、一日に二〇本の葉巻を吸うヘビースモーカー。しかも葉巻がなければ、仕事が全く手につかない。心臓に悪影響を与えると知ってはいてもやめられない。何度か試みた禁煙も、結局長くは続かない。そう、フロイトは完全にニコチン中毒患者でもあったのだ。
「私の働く能力がひじょうに強化されたのも、自制がきくようになったのも、葉巻のおかげだと信じます」これは、フロイトが七二歳のときに書いた手紙の中の一文であるが、とにかく彼と葉巻は、切っても切れない関係にあったといえよう。
晩年、ついに口腔癌におかされても、ニコチンが切れると体調が悪くなる。だからまた吸う、といった悪循環の繰り返しだったらしい。
結局フロイトは、三三回もの手術を受け、一六年間口腔癌に苦しんだ末、八三歳の生涯を閉じたのである。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670848 |