ステンレス
【東京雑学研究会編】
§ステンレスはもともと錆びている
ステンレスとは、英語で「錆がない」という意味だ。しょっちゅう水に濡れたり、水滴のついたまま放置されることの多い包丁や鍋などのキッチン用品には、最適の素材である。
もともと「錆」というのは、金属が空気中や水中に置かれて酸化することで生じる。特に鋼鉄は、原料の鉄鉱石から酸素を還元して製造されるので、放置すると酸化して、もとの鉄鉱石の状態に戻ろうとする性質を持つ。その酸化した部分が錆と呼ばれているわけだ。
その性質を改善するために考案されたのが、ステンレス鋼。鋼鉄にクロムのような合金を加えて錆びにくくしたものだ。そのステンレス鋼の表面には、製造過程で不働態皮膜という透明のごく薄い膜が作られる。
この不働態皮膜は、酸化膜とも呼ばれ、錆びたときと同じようにわざわざ鋼鉄を酸化させたもの。早い話が、透明な薄い錆でおおうことによって、素地の鋼鉄を空気や水溶液から保護していることになる。
この膜の厚さは一〇オングストローム(一〇〇〇万分の一センチ)しかないから、包丁で金属分を含むものを切ったり、鍋をタワシでこすりすぎたりすると、剥がれ落ちてしまう。その部分から錆を生じることもあるわけで、錆びない金属ではなく錆びにくいだけのものと心得ておこう。ステンレスをステンレスらしく保つには、使い方、保存方法などの注意が必要なのだ。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670506 |