キリスト教
【東京雑学研究会編】
§キリスト教の聖典、聖書を作ったのは異端派だった?
キリスト教の聖典は聖書。これは当然、正統派のキリスト教会によって編纂されたものだが、なんと、正式な聖書編纂以前にキリスト教の聖典が、異端として破門されたマルキオンという人物によって作られていたのだ。破門される前のマルキオンはローマ教会に所属し、一四四年頃に独自の教会を設立していた。
当時のキリスト教は旧約聖書を教典としていた。しかし旧約聖書はユダヤ教の聖典で、キリスト教独自の聖典はまだなかったのだ。
そこでマルキオンは旧約聖書を排斥し、ルカとパウロに関する独自の解釈を施した上で、「福音書」にはルカだけ、「使徒書」にはパウロ書簡だけを使った聖典を作った。つまり、「福音書」と「使徒書」から構成される簡略福音書を作ったのだ。この「福音書」と「使徒書」から成る新約聖書の形は現在も生きているが、そもそもこのような形の聖典を作ることを思いついたのはマルキオンだったのだ。
マルキオンは旧約聖書の神と新約聖書の神を全く別であると主張した。
つまり旧約聖書の神は悪に対して懲罰を加え、善に対して恵みをもたらす応報的正義を特徴とする。それに対して新約聖書の神は、「天国は罪人のためにある」として決して懲罰を行わず、人間に対する無償の愛を特徴とした。マルキオンは新約聖書の神を重視し、旧約聖書を排斥したため、破門されてしまったのだ。
正統派のキリスト教会はマルキオンを破門してはみたものの、自分たちは独自の聖典を持っていない。そこでマルキオン派を排斥しながらも、その一派が聖典を作る運動のきっかけとなったのだ。
マルキオンが作った教会は正統派教会の競争相手として長く続いていくこととなる。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670264 |