蚊取り線香①
【東京雑学研究会編】
§蚊取り線香が渦巻き型なのは、社長夫人のアイディア!
蚊退治という目的もさることながら、風情のある形状と香りが根強い人気を持つ渦巻き状の蚊取り線香。それは花火やスイカ、カキ氷とならぶ「日本の夏」の風物詩の一つである。昨今では昭和レトロブームの到来によって、若者の間ではインテリアの一つとしても注目を集めている。
ところで、どうして渦巻き状の蚊取り線香が生まれたのだろうか。
蚊取り線香が最初に作られたのは一八九〇(明治二三)年。「金鳥」ブランドで知られる大日本除虫菊の創業者で、除虫菊の研究開発をつづけてきた上山英一郎が、「金鳥香」という棒状の蚊取り線香を発明したのである。
しかし、棒状の線香は長くするにはおのずと限界があった。しかも折れやすく、煙の量はすくなかった。効果も一時間持たなかったという。疫病が蔓延し、蚊やノミに悩まされていた当時の消費者に、英一郎は長時間効果を発揮する蚊取り線香を届けたいと強く願っていた。そういった英一郎の願いを実現し、現在の渦巻き型に改良したのは、ある人の貴重な提案があったからだ。
その人は、英一郎の妻・ゆき。彼女の「だったら、渦巻き状にしたら」のひと言で、形状が変更されたのである。試行錯誤の末、一九〇二(明治三五)年、渦巻き状の蚊取り線香「金鳥かやいらず」が発売された。それは棒状に比べて折れにくく、長時間持つ画期的な商品となった。現在もロングセラーをつづけている。
ちなみに、蚊取り線香のひと巻は七五センチだ。これは人間の平均睡眠時間である七時間燃えつづける長さである。人が蚊に悩まされることなく熟睡できるようにするために七五センチの長さの渦巻きが必要だったのだ。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670201 |