漢方の在り方
【かんぽうのありかた】
メーカー中心の漢方から患者中心の漢方へ
現在は、医師も薬剤師も、専門的に中医学を学習する場が少ないということを本辞書で紹介しました。多くの場合、彼らは漢方メーカーの資料を参考にしたり、メーカー主催の講座を受講しながら学習してきました。しかし、人材を育成しようという主旨で講座を開催しているメーカーはそれほど多くないために、ここに一つの問題が生じています。
メーカー側からすると、自社の商品を売ってもらいたいがための講座ですから、自社の商品目録の中からどれが患者に有効かを説明したり、あるいは一つの製品がいかに多方面の疾患に適応するかを説明しようとします。しかし本来患者は、自分にもっとも適切なものを処方してもらいたいのですから、そのメーカーにない製品が必要な場合についても、それらをきちっと教えるべきなのです。私もこれまで、多くの講座の講師を依頼された経験があります。臨床家たちが主催のものなら、メーカーが協賛についていても自由に処方を紹介できますが、やはりメーカー主催の場合は、どうしてもそのメーカーの商品を宣伝せざるを得なくなります。
そうした勉強を経て臨床を始めた病院や漢方薬局には、さらにメーカーの影が強く出ます。たとえばあるメーカーは、その社の会員にならないと購入できない商品を揃えています。もちろん会員になると、チラシ広告など販売促進のためのサポートはしてもらえるのですが、その反面、年間販売額に最低限のノルマが用意されており、会員店はどうしても患者をその社の商品に誘導してしまう傾向が強まります。また最近の不況でひところより減りましたが、メーカーが製品の有効症例を集めるために、医師の東洋医学会への参加費用や旅費などを全部メーカー持ちにすることで、自社の特定のエキス剤を多用してもらうというようなことも当たり前だったようです。
そこで、読者の皆さんが漢方薬局や病院で漢方薬を出してもらおうと考えるなら、「煎じ薬」を中心にしている所をおすすめします。煎じ薬であればメーカーのしばりは少ないうえに、処方できる種類も豊富になります。また、一つ一つの薬草単位で患者の証との対応を考えますので、商品名は知っているけど、中に入っている処方構成は知らないなどという、無責任な出し方もなくなるからです。
| 日本実業出版社 (著:関口善太) 「東洋医学のしくみ」 JLogosID : 5030114 |