避妊と妊娠中絶
【ひにんとにんしんちゅうぜつ】
Contraception , Artificial Termination Of Pregnancy
●避妊法
避妊法を正しく理解するには、どうしたら妊娠するかを理解する必要があります。女性はおよそ月に1回「排卵」といって、卵巣から[1]卵子を放出します。膣内に射精された精子は、[2]子宮内に侵入後に卵管内を遡上(そじょう)し、卵管膨大部で卵子と出会い受精します。こうしてできた受精卵は、卵管から子宮内へ戻り、子宮内膜に[3]着床(ちゃくしょう)します。これらのステップを経て妊娠は成立するのです。避妊法はこれらのステップのうちどれかをブロックすることで妊娠成立を妨げ、避妊につなげています。
世間では様々な避妊法が知られていますが、どの避妊法を選択するかにおいて知っていてほしい大切なことがあります。1つは、「100%の避妊法はない」ことです。また、選択する避妊法によって妊娠率(失敗率)が異なります。2つ目は、避妊と同時に性感染症(肝炎、HIV、クラミジア)を予防することも大切なことです。とくにクラミジアは、腹膜炎や卵管炎を起こし、将来不妊症の原因になる怖い病気です。その半分はほとんど症状がみられないうちに感染するといわれています。望まない妊娠も、性感染症も、今後本当に赤ちゃんが欲しいと思ったときに、プラスに働くことはありません。そのためにも正しい知識を持ってほしいと願います。
●コンドーム
日本で最も普及している避妊法です。膣内で精子の侵入をブロックする方法です。正しくコンドームを使用すれば(性交渉のはじめから終わりまで装着すれば)、97%の避妊効果があり、性感染症についても予防効果が高いといえます。ただし、正しく使用しなければ(たとえば射精直前に装着する、性交渉の際にはずれるなど)失敗率も高くなります。女性用のコンドームもありますが、一般的には男性用のほうが普及しており、男性主導の避妊法であることが欠点です
●子宮内避妊器具(IUD)
「避妊リング」ともいわれます。子宮内にIUDを入れることで受精卵の着床を阻止し、避妊につなげます。リング状の形をしている子宮内避妊器具がかつて一般的でしたので「リング」といいますが、最近のものはクサビ型をしているものが多いです。女性のみで行える避妊法であることが長所ですが、装着には婦人科に受診する必要があり、痛みや出血があります。また、定期的に交換が必要で、まれですが子宮内感染の原因となることもあります。この方法では、受精は防止できないので子宮外妊娠は起こる可能性があります。
●低用量ピル
毎日1錠ずつ、正しく定期的に内服することで高い避妊効果が得られます。避妊の失敗率は1%未満ともいわれています。卵巣からの排卵を抑制し、子宮内膜への着床を阻害する効果や精子の子宮内への侵入を抑制する効果など、妊娠に必要なステップを多方面からブロックするため避妊効果が高いといわれています。ただし2日間服用を忘れると効果はありません。また、日本では医師による処方が必要で、その際に問診と血液検査などを行います。数カ月に1回の定期的な通院や、薬自体も比較的高価であることなどのためか、日本ではあまり普及していないのが現状です。薬の副作用として多いのは、吐き気やむくみ、体重増加など女性にとってはあまり嬉しくない症状が多いのですが、薬の種類を変えると症状が軽くなることもあるので、医師に相談しましょう。
●緊急避妊
「緊急避妊」という避妊の方法もあります。避妊具の装着不備や低用量ピルの服用忘れなど、避妊措置に失敗した場合や避妊措置を講じなかった場合に、望まない妊娠を回避するために緊急的に使用するもので、性交後72時間以内にレボノルゲストレル(合成黄体ホルモン)1.5mg(2錠)を1回服用することにより避妊効果を発揮します。
ただし、その避妊効果は性交後時間が経つごとに低下します。あくまで日々の「計画的」な避妊法がうまくいかなかった時に使うバックアップであって、毎回頼るものではありません。自分に合う計画的な避妊法を考える必要があります。
●妊娠中絶
最初にいっておきますが、日本の法律で「母体保護法」という法律に基づいた人工妊娠中絶のみ、施行してよいとされています。その内容は、母体にとって、妊娠が身体的、経済的、精神的に健康状態を著しく損ねる場合や、暴行などにより望まない妊娠をした場合です。
人工妊娠中絶は、初期ならば子宮内容除去術という手術を行います。流産や子宮体ガンの診断などでも行う手術なので、産婦人科の領域では比較的多い手術の1つですが、安易に考えてはいけません。婦人科の手術の中では、開腹手術よりも難しいともいえます。なぜなら、目で直視することなく、手の感触だけをたよりに器具を使って子宮のなかを掻(か)きだす手術のため、子宮内容除去術を行った際には「子宮穿孔(せんこう)」といって、子宮壁に器具で穴を空けてしまう怖い合併症を起こす可能性があるからです。とくに、妊娠した子宮は非常に柔らかく、子宮穿孔のリスクが高いといえます。子宮壁に穴をあけたその先はお腹の中ですから、子宮の周囲の臓器(膀胱や腸など)を傷つけることもありえます。ほかの合併症には出血、感染、遺残(いざん)(取り残し)などがあります。
人工妊娠中絶は、母体に精神的にも肉体的にもダメージを与えるものです。そうならないためにも、正しい避妊と妊娠計画をしっかりと立てることが重要です。 (山田朝子)
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5036613 |