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標準治療コラム > 心療内科・精神科

虚血性心疾患とタイプA行動パターン
【きょけつせいしんしっかんとたいぷえーこうどうぱたーん】

Ischemic Heart Disease And Type A Behavior Pattern

■■概説■■
 虚血性心疾患とは、心筋の虚血によって生じる症候群であり、狭心症と心筋梗塞および無症候性心筋虚血があります。その病態は、冠動脈の粥状(じゅくじょう)硬化であり、血管の器質的狭窄(きょうさく)、血栓形成あるいはれん縮によって、心筋への血流不全をきたすことによるものと考えられています。
 虚血性心疾患の危険因子としては、大規模な疫学的研究によって、高血圧症、高脂血症(とくに高コレステロール血症)、喫煙、肥満、糖尿病、高尿酸血症などが明らかにされ、さらに近年になって情動ストレスとタイプA行動パターンが注目を集めてきています。これらはいずれも冠動脈硬化を促進する要因であり、その多くは食行動、喫煙・飲酒習慣、運動不足などの不適切な生活習慣によるものです。最近では「生活習慣病」という呼称が定着しつつありますが、虚血性心疾患はまさしく生活習慣(ライフスタイル)のゆがみによる病気の代表的なものといえます。
 タイプA行動パターンとは、性格的には競争的、野心的、精力的であり、行動は機敏、性急で常に時間に追われて、多くの仕事に巻き込まれており、身体面では高血圧症や高脂血症が多いという特徴をもつものをいいます。欧米では、これらタイプAの人々には、これと正反対のタイプBの人に比べ、より高率に虚血性心疾患が発症し、その相対的危険率は約2倍であったことが報告され注目を集めました。
 日本でも、狭心症・心筋梗塞患者にはやはりタイプA行動パターンが多いことが指摘され、日本人用のタイプA判定法の開発が試みられています。その結果、「敵意」「攻撃性」はあまり表出されず、性急さや仕事中毒といわれるような過剰適応が日本人的なタイプAと考えられています。

■■症状■■
 狭心症は、一過性の虚血による胸痛(多くは数分~15分以内)をきたすもの、心筋梗塞は冠動脈の閉塞(へいそく)による心筋壊死(えし)を起こすもの、無症候性心筋虚血は無症状であるが心電図上、虚血性変化を伴うものです。
 狭心症には、運動・労作時に心筋への酸素供給不全によって生じる労作性狭心症と、安静時に冠動脈れん縮によって起こる安静狭心症に分類されています。また、労作よりもストレスや強い情動変化によって誘発されるものを情動性狭心症と呼ぶこともあります。狭心症の症状は、胸部の絞扼(こうやく)感(しめつけられるような痛み)が特徴的でしばらくすると治まります。心筋梗塞の胸痛は激しいもので、すぐに救急病院に行って治療を受けないと心不全や致死的な不整脈を起こし、生死にかかわります。

■■診断■■
 診断は、特徴的な胸痛の症状と心電図検査によりほとんどの場合、確定することが可能です。心筋梗塞の場合は、特徴的な心電図変化と心筋壊死(えし)による逸脱酵素の血中濃度を測定することによって確定します。また、冠動脈造影法によって冠動脈の狭窄/閉塞部位を確認することも可能です。

■■標準治療■■
 狭心症や心筋梗塞の治療は、内科的治療が優先しますが、場合によって外科的治療が必要です。同時に、冠動脈硬化を促進するような危険因子を減らしていくようなライフスタイルの修正が重要な意味をもっています。
 タイプA行動パターンの人は、常に何かと競争していて、多くの仕事を抱え込み、時間に追われて行動しています。そして、自らストレスの多い生活を選び、ストレスを多く受けているにもかかわらず、そのことをあまり自覚せずに過ごす傾向があります。また、ストレスに対する反応の仕方も交感神経系優位の反応が現れやすく、血圧が上がる、脈拍が増えるなど循環器系に負荷がかかりやすいと考えられています。欧米では、こうした心筋梗塞のタイプA患者に行動修正する大規模な治療研究を行い、タイプAの行動変容と心筋梗塞の再発予防に効果があったことを報告しています。
 日本でもタイプAの行動修正カウンセリングを行った成績が報告されていますが、その内容は、[1]タイプAであることを気づかせる、[2]行動修正への動機づけ、[3]性急さの軽減、[4]仕事の過重負荷を減らす、[5]自律訓練法などのリラックス法、から構成されています。こうした行動修正がどのくらい心筋梗塞の予防に効果があるかは今後の研究成果を待たねばなりませんが、行動科学的な新たな取り組みとして注目を集めています。

■■生活上の注意/予防■■
 最近の日本人の生活はすっかり欧米型になってしまいましたが、それとともに心臓病(とくに心筋梗塞)が増加するという副作用を招来しました。心臓病の予防には、危険因子を減らすようなライフスタイルが最も効果的です。また、日頃からストレスをためこまないように、ストレス解消に心がけましょう。運動やスポーツをする、友人と話をする、気分転換をはかるなどいろいろありますが、やけ酒、食べすぎ、タバコの吸いすぎはやめましょう。 (野村忍




寺下医学事務所 (著:寺下 謙三)
「標準治療」
JLogosID : 5036601

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