皮膚レーザー治療
【ひふれーざーちりょう】
■■レーザー光線について■■
レーザー光線とは、ある一定の波長の光を増幅させ、エネルギーを高めたものです。レーザー光線の持つ温熱作用を有効に利用して、標的となる色素を持ったあざの治療を行うのが、レーザー治療です。高いエネルギーを持つレーザー光線ですから、標的となる病変だけに作用させないと、周囲の健康な皮膚にも障害を与え、瘢痕(はんこん)を生じてしまいます。よって、レーザー光線による治療には、以下の3つの条件が重要となります。
1)波長
現在皮膚科領域の疾患に使用されているレーザー光線は、メラニンの黒色色素の沈着からなるあざやしみに対するものと、赤血球の持つヘモグロビンの赤色色素を多く含む血管腫に対するものがあります。
メラニンは広い波長の光を吸収しますが、波長が長いほど吸収効率は低下します。ヘモグロビンは418,542,577nm(ナノメートル)の光に吸収ピークを有しています。また、光は波長が短くなるほど深部へ到達しなくなりますので、ヘモグロビンに対しては577nmくらいの光が好ましく、メラニンに対しては700nm前後の波長が選択されます。
2)照射時間
波長を標的に合わせても、長い時間照射していれば周りに障害を与えますので、標的にだけ十分に作用する、なるべく短い時間を設定して照射する必要があります。
3)照射エネルギー
短い時間内に標的を十分に破壊するには、高いエネルギーを照射しなければなりません。
これらの3つの条件を持つレーザー機器を用いて治療が行われているのです。
■■メラニンに対するレーザー治療■■
メラニンの沈着による病変には、波長が694nmのルビーレーザーか、755nmのアレキサンドライトレーザーが使用されます。皮膚は、表面にある表皮層とより深いところにある真皮層に分けられますが、真皮層のメラニン沈着による太田母斑(あざ)は、レーザー治療でほぼ完全に消すことができます。太田母斑は顔面、とくに目の周囲にやや青黒い色素沈着がみられるもので、通常は右か左の片側だけにみられますが、時にしみ、そばかすと間違われる両側にできるタイプもあります。このあざの治療は医療保険が適応されます。治療回数は2ないし3カ月おきに、5回以上は必要です。そのほか、真皮のものとしては青黒い刺青を消すこともできますが、もちろん保険は使えません。
表皮の色素沈着のうち、扁平母斑は保険の適応があります。これは、多くは生下時より存在する茶あざであり、全身どこにでも生じます。このあざの治療は数回繰り返し行う必要がありますが、なかなか完全には消せません。小児期に治療を開始したほうがより効果があるようです。そのほかでは、そばかすは非常にきれいに1回で消すことができますし、老人性のしみも十分に薄くすることができます。ただし、やはり茶色のしみですが、肝斑と呼ばれるものはかえって濃くなることもあります。すなわち、レーザー治療は治療の手技以上に正しい診断がより重要です。
■■ヘモグロビンに対するレーザー治療■■
現在最も使用されているのは、585nmのダイレーザーです。単純性血管腫は生下時よりみられる平らな赤色のあざですが、数回繰り返し照射することにより、薄くすることができます。照射後に一時的に色素沈着を生じることが難点です。苺状血管腫は生後間もなくのころは平らであったものが、イチゴのように真っ赤で表面がぶつぶつした盛り上がりを示してくる血管腫です。以前は自然に消えるのを待つのが方針でしたが、赤みは消えても弛んだ皮膚が残るため、最近では生後1、2カ月の時期からダイレーザーを照射するのが良いとされています。これらのあざの治療は医療保険給付の対象となります。
■■その他のレーザー治療■■
その他の病変でレーザー治療が行われているのは、炭酸ガスレーザーを用いた、ほくろやいぼの治療、アレキサンドライトレーザーを用いた脱毛、真皮に作用させてしわを浅くする治療などがあります。レーザー治療はこのように美容的な領域への拡大をみせており、様々なニーズに応える治療となりつつあります。 (川島眞)
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5036598 |