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裁きの豆
雑学大全

植物の中には毒を持つものも多く、それは鳥獣や人間に食べられて種が絶滅することを防ぐ、植物の保護機能と考えられなくもない。
そんな自然の造詣を、人間は利用することを知った。未開の時代、植物から得た毒を矢じりに塗って狩猟用の毒矢を作ったのである。それはそれで、人間が生きていくために許される手段の一つと考えることもできる。
ところが、少し文明が発達すると、その毒のある植物を裁きの物差しとして使うようになった。毒のある植物を食べさせるか煎じて溶液を飲ませ、生き残れば無罪、死ねば有罪という裁きの道具にしたのである。
アフリカの地で、このように使われてきたのがカラバル豆だ。西アフリカ、ニジェール川河口、カラバル地方の植物の種子で、フジに似た灌木に実をつける。これが、現地ではエゼールという名前で呼ばれる毒豆で、古来「裁きの豆」とされていた。
カラバル豆による裁き方は、各地で行われていた試罪法の一つで、豆粒を二〇〜三〇個くらいそのまま食べさせるか、煎じた液を飲ませるもの。たいていは、夫婦の間で不貞問題が起こったとき、この豆による試罪法が行われた。
実際は、毒にあたるかあたらないかの運というより、罪の意識のない場合、試薬を一気に飲むので胃が刺激されて吐くことになり、毒が回ることがなく、反対に罪の意識のある場合、後ろめたいのでこわごわ、そろそろ飲むため毒が徐々に回って死に至るということが多かったらしい。
しかし毒をもって毒を制すと言われるとおり、猛毒はその量を間違えずに使えば薬になることも多い。
このカラバル豆も、一八四〇年にこの地を訪れた宣教師・医者によってロンドンに送られ、成分検査された結果、エゼリンあるいはフィゾスチグミンという物質が猛毒ではあっても眼圧を下げる効果のあることがわかり、緑内障の特効薬となった。
フィゾスチグミンの毒性は、半数致死量が〇・七五ミリグラムとされるが、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、発汗、顔面蒼白などの症状が出ることがわかっており、この嘔吐を引き起こす作用が、試罪法にちょうど合うものだったということも証明されている。

  

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