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向田邦子
雑学大全

橋田寿賀子、山田太一と並ぶシナリオライター・向田邦子。実践女子大学を卒業後、映画雑誌の編集者をしながら市川三郎に師事し、ラジオ、テレビの台本を手掛けた。一九六四(昭和三九)年「七人の孫」というヒットを飛ばし、その後、「だいこんの花」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」「あ・うん」「隣の女」などのヒットを連発して高視聴率ドラマ作家の地位を不動のものにした。一九八〇(昭和五五)年には「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で第八三回直木賞を受賞した。
彼女が執筆したドラマの数は一〇〇〇本以上、ラジオに関しては一万本を超えるが、絶妙なセリフまわしや、卓抜した構成で「向田ドラマ」という言葉も生まれ、今日のホームドラマの基礎を築いた。
といった華々しい経歴を持つ向田邦子がとんでもない悪筆だったということは案外知られていない。
あまりの達筆のために、まるで読めない字を書く人はたまにいるが、向田邦子の場合、それが並外れていた。本人はきちんと書いているつもりなのだろうが、他人にはどうしてもミミズが這い回ってるくらいにしか見えない。もちろん私信なら、それでもある程度許されるかも知れないが、印刷物になる原稿となるとトラブルが多発することになってしまう。
とにかく彼女の原稿の読みにくさは天下一品。テレビドラマの台本も、生原稿が印刷所で印刷されてきても、誤字脱字だらけで関係者は大弱りだった。
ある日、女優の池内淳子が向田邦子に聞いたことがある。
「向田先生、台本に『猿股』って書いてあるんですけど、私、どんな表情をすればいいんでしょう?」
向田邦子は驚いて、
「なんですって? 私は『狼狽』って書いたのよ?」
こんな実話も飛び出すほど、向田邦子の原稿は読みにくかったようだ。
困りに困ったスタッフは彼女の字を判読できる印刷所を特別に指定し、もっぱらそこで向田作品の台本を印刷させることにした。
これで誤字脱字のトラブルは目に見えて減り、この印刷所は「向田印刷所」のニックネームを賜り、関係者におおいに感謝されていたという。

  

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