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菊池寛
雑学大全2

菊池寛は、一九二〇(大正九)年に発表した通俗小説『真珠夫人』の人気などをきっかけに、純文学から通俗文学に転向。一九二三(大正一二)年、雑誌『文藝春秋』を創刊して、文学を一般の人々にも身近なものとした。一九三五(昭和一〇)年、後進の育成のために芥川賞と直木賞を設定。編集、出版や文学の発展に貢献し、「文壇の大御所」と呼ばれた。「文壇の大御所」などというと、大物すぎてちょっと怖そうなイメージがあるが、菊池寛には、あきれるほどの涙もろさをうかがわせるエピソードが残されている。一九二〇年一〇月、戯曲『父帰る』が初上演されたときのこと。家族を捨てて女と家出した父が落ちぶれて戻ってきたとき、長男の賢一郎が父を許さずに一度は追い返すが、力なく立ち去ろうとする父を見て、弟妹たちとそのあとを追う……という話で、ストーリーと俳優の熱演によってたいへん感動的な芝居になった。長男の賢一郎が父の後を追うラストシーンでは、多くの観客が涙を流し、すすり泣く声が客席全体に広がった。芥川龍之介や久米正雄も涙を流していた。驚いたことに、作者の菊池寛自身までもが、平土間の客席にあぐらをかいたまま、しばらくは立とうともせず、じっとうつむいて涙を流していた。涙はなかなかやまず、鼻水まで出てきて、鼻紙を出して何度も何度も涙と鼻水を一緒にぬぐっていたという。驚くほど涙もろい人なのか? でなければ、よほど思い入れのある作品だったのか?作者自身の涙に、泣いていた周囲の人も驚いたらしい。

  

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