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ののしり言葉
雑学大全

「貴様」は相手をののしるときに用いるかなり強い調子の言葉だ。
でも「貴」も「様」も相手を敬う呼び掛け言葉(二人称)のはずなのに、どうしてこの二つがくっつくと、ののしり言葉になってしまうのだろう?
「貴様」は中世末から近世初期にかけて上流社会に発生した言葉。
もちろん最初はかなりの敬意を表現する品格のある言葉で、もっぱら武家の書簡の中で使われていた。しかしその後、だんだんと口語化し、一般庶民の間でくだけた調子で使われるようになっていった。一般庶民が日常的に使うようになれば当然、言葉の意味は軽くなってゆき、「貴様」という言葉も少しずつ尊厳を失っていった。
それでも明和・安永期(一七六四〜一七八一)には、軽い敬意を含んでいたが、文化・文政期(一八〇四〜一八三〇)には完全に対等な人に対する呼び掛け言葉になってしまったのだ。
天保期(一八三〇〜一八四四)になると、「貴様」という言葉の品位は完全に失われ、目下の人に対して用いられるようになり、ののしり言葉となって定着してしまった。
このように時代が下ると「貴様」という言葉を使用する階層も下がってゆき、近世末には上流階級では全く使われなくなり、現在では野卑な呼び掛け言葉か罵倒の言葉、あるいは目下の人に対する卑称となってしまったのだ。
同じような例はほかにもある。
「お前」「君」というと対等あるいは目下の人に呼び掛ける言葉だが、「お前」はもともと「御前」、「君」は君主を指す、どちらも目上の人に対するていねいな呼び掛け言葉だったのだ。
不思議なことに現代の日本語には、目上の人に対する呼び掛け言葉がない。
だから目上の人と話すときは「あなたはどこに住んでいますか?」「あなたのお陰で合格できました」という表現は使わない。「どちらにお住まいですか?」「お陰さまで合格することができました」と、呼び掛け言葉を省略するのが適切なのだ。

  

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