ゴアテック
水と水蒸気は、元は同じでも大きさが異なる。それを利用したのが、透湿防水素材である。代表ブランドはゴアテックスだ。
防水の施されたウエアを着て、蒸れて不快な思いをしたという経験はないだろうか。
「濡れない」と「蒸れない」とは相対(あいたい)する性質なのである。
その矛盾(むじゅん)する性質を解決する素材が、透湿防水素材である。
最初の商品名がゴアテックスと呼ばれているので、こちらの名称のほうが有名かもしれない。
この素材は複数の生地を貼り合せてできているが、中の1枚に無数の微細な孔(あな)がある膜が含まれている。
この孔は、空気や水蒸気を通すが、水は通さない。
したがって、雨の水滴は外側から入ることはできないが、体から出た水蒸気は外に放出される。
こうして「濡れずに蒸れない」という相矛盾する性質を兼ね備えた生地が生まれたのである。
水と水蒸気は同じもの、と思うかもしれない。
両者とも、水素原子2個と酸素原子1個が結合した水分子(H2O)からできている。
しかし、分子レベルで見ると、水と水蒸気には大きな違いがある。
水は水分子がクラスターと呼ばれるたくさんの集合体からできている。
それに対し、水蒸気は水分子単体または数個からできている。
したがって、ほどよい大きさの孔ならば、水は通さずに水蒸気を通すことは可能なのである。
水分子を人に例えるなら、一人が通れる孔でも、手をつないだ多人数は通れない、ということになる。
ちなみに、「水を通さず、水蒸気は通す」と「水を通さず、汗は出す」は違う。
汗は水蒸気ではなく、水である。
したがって、濡れた汗は排出してくれない。
また、濡れたところに長時間座っていると、外の水分が水蒸気となって内側に逆流してくることがある。
しくみを知らないと、素材の長所を生かせないのは、皆同じなのだ。
近年、透湿防水素材が安価に生産できるようになったおかげで、応用範囲が広がっている。
例えば「雨が降っても大丈夫」とうたうふとん干しカバーも、この素材を利用している。
カバーで包めば、ふとんの水蒸気は外に出てくれるが、雨はしみ込まないのだ。
【執筆・監修】
中経出版 「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術vol.2」 JLogosID : 8567150 |