曇らない鏡
風呂の鏡が湯気で曇ったり、雨天時のドライブでミラーが雨の滴で見えなくなったりする。これを解消する製品が人気だ。
風呂の湯気(ゆげ)で鏡が見えなくなって困ることがある。
このとき役立つのが曇(くも)り止めスプレーである。
鏡をよく拭き、このスプレーを吹きかければ、鏡は元のようにクリアになる。
どうして曇りを止められるのだろう。
鏡が曇るのは、鏡に無数の小さな水滴がつき、光が乱反射するからである。
したがって、この水滴をなくしてしまえば、鏡は曇らないはずだ。
曇りを解消するには、鏡に水滴をなじませてしまえばいい。
すなわち、鏡の表面を親水化すればいいのだ。
そうすれば、表面は平らになり、鏡は曇らない。
その親水化の物質でできた製品が曇り止めスプレーなのである。
曇り止めスプレーには親水性ポリマーが利用される。
親水性ポリマーはイオン性の有機化合樹脂で、鏡にとりついて親水性の膜を作る。
こうして水滴は鏡の表面で平らになり、曇らなくなる。
ただし、スプレーによる「曇り止め」には限界がある。
時間とともに親水性ポリマーが剥がれ落ち、効果が消えてしまうからだ。
そこで、最初から鏡に親水性の物質をコーティングしておく方法が開発されている。
それが酸化チタンを利用する方法である。
近年知られるようになったことだが、酸化チタンには超親水と呼ばれる性質がある。
酸化チタンに光を当てると、その周辺が高い親水性を帯びる、というありがたい性質だ。
そのため、酸化チタンを鏡のガラス表面にまぶしておけば、鏡表面は親水状態を保ち、曇ることがないのだ。
酸化チタンには超親水性以外にも、光触媒(ひかりしょくばい)作用と呼ばれる頼もしい性質がある。
酸化チタンの近くについた油膜などを、光の力を利用して酸化・分解する性質だ。
つまり、鏡に汚れがついても、ひとりでに剥がれ落ちてしまうのである。
おかげで、酸化チタンをコーティングした鏡は長時間防汚効果を保ち、良好の反射性を維持することになる。
汚れのつきやすい道路の反射鏡に、酸化チタンをコーティングした鏡が利用されるのはこのためである。
【執筆・監修】
中経出版 「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」 JLogosID : 8567045 |