撥水スプレー
傘やコートにシュッとひと吹きしておくだけで、雨水をはじいてくれる。雨の憂鬱が半減するアイテムだ。
古くなった傘(かさ)は、雨の水滴がなかなか取れない。
しかし、撥水(はっすい)スプレーをひと吹きしておくと、新品のように水をはじくようになる。
スキー場に行って、スキーウエアにかけておくと、雪の上で転んでも濡れることはない。
スプレーの主成分となる撥水剤にはさまざまな種類があるが、服や傘などに吹きかける撥水剤の多くはフッ素樹脂(ふっそじゅし)を成分に持っている。
フッ素樹脂はきわめて安定しており、他の物質と作用しない。
このことは、フライパンの表面加工に用いられていることからもわかる。
他と作用しないというこの性質は、水に対しても当てはまる。
したがって、フッ素樹脂の微粒子(びりゅうし)を吹きかけておけば、水はなじむことなく弾(はじ)かれる。
これが撥水のしくみである。
車のガラスに吹きかける撥水剤の多くはシリコーン樹脂を成分とする。
シリコーン樹脂はケイ素を骨格にした樹脂である。
ケイ素は炭素と親戚(しんせき)であり、炭素からできた油脂(ゆし)が水と分離するように、シリコーン樹脂にも水を遠ざける性質がある。
この疎水性(そすいせい)を利用して撥水効果を出すのだ。
ガラスにシリコーン樹脂の撥水剤を利用するのは、ともにケイ素が主成分のため、相性がいいからだ。
ワイパーでこすっても落ちにくい。
ガラスに吹きかけられたシリコーン樹脂の撥水性のしくみをミクロに見てみよう。
撥水剤をスプレーすると、ガラスと相性のいいシリコーン樹脂の分子はきれいに表面を覆(おお)い、水分子が入り込みにくくなる。
さらに、ガラスと相性のいいシリコーン樹脂の分子はガラスから剥(は)がれにくい。
これが分子の世界で見た撥水性の秘密である。
ちなみに、ケイ素をシリコン(silicon)という。
その有機化合物のシリコーン(silicone)とは異なるものだが、マスコミなどでは後者も「シリコン」と書き表すことがある。
撥水に似た言葉に防水がある。
撥水は水をはじくだけだが、防水は水を通さないことを意味する。
防水加工された衣類が蒸むれやすいのはこのためだ。
【執筆・監修】
中経出版 「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」 JLogosID : 8567030 |