ワシントン
【東京雑学研究会編】
§ワシントンの有名な桜の木のエピソードはウソだった!?
アメリカ合衆国の建国の父と言われる初代大統領ジョージ・ワシントンといえば、子ども時代の桜の木のエピソードが有名だ。父親から斧を贈られた少年ワシントンは、うれしくなり、その切れ味をいろいろなもので試してみた。つい父親の大切にしていた桜の木までも試してしまって、深い傷を桜の木につけてしまう。翌朝、父親がそれを発見して、家族のものたちに聞くが、誰も心当たりがないという。そこに斧を手にしたワシントンが現れ、自分から「僕がやりました」と告白し、父親に謝る。すると父親は、「おまえのその正直な答えは、桜の木一〇〇〇本よりも価値がある」と抱きしめた。人間はウソをついてはいけない、正直がいちばんだという教訓をこめた話だ。
ところが、実はこれはワシントンの死後にメイソン・ロック・ウィームズが書いた作り話なのだ。アメリカが独立したのは一七七六年、ワシントンが亡くなったのは一七九九年。彼は一八〇〇年にワシントンの逸話を集めた『逸話で綴るワシントンの生涯』という本を書き上げた。この本はとても好評で、ウィームズが死ぬまでに二一版を重ねるほどヒットしたそうだ。
ただし、桜の木のエピソードは最初から書かれていたわけではない。第五版ではじめて登場する。つまり、あとから付け加えられたものなのだ。そもそもワシントンの生家には桜は植えられていなかったのだ。首都ワシントンのポトマック河畔にある桜並木は、一九一〇(明治四三)年に当時の東京市長である尾崎行雄が日米親善のために贈ったものだ。
だからといってワシントンがほんとうはウソつきだったということではない。彼は確かに正直な人間だったと言われている。つまり桜の木のエピソードは、それなりに正直だった。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670958 |