その他の蒸溜酒の基礎知識
概説
ウイスキー、ブランデーと、ジン、ウオッカ、ラム、テキーラの四大スピリッツのほかに、世界各地には地域に密着した地酒的な蒸溜酒がある。それらは、気候風土や歴史よって育まれ、人々の生活と密接に関わってきた。それぞれに特有の味わいがあり、国民酒として国が規定を設けているものも多い。
蒸溜酒の製法の基本は、穀物や果実を主原料に、酵母を加えてアルコール発酵させ、できた原酒(醸造酒)を蒸溜する。そのため地域性は、まず第一にどんな原料を使うかによって現れる。そして、その土地の自然環境によって異なる酵母も大切な存在。たとえ同じ原料を使っても、酵母が違えば風味もおのずと違ってくるからだ。
また、香味づけも個性を出す大きな要素だ。主原料の風味(地域性や酵母の特性により様々)を受け継いだ蒸溜酒をベースとして、ハーブやスパイスなどで香味をつけることで、より独特な味わいが生まれる。
基本的な製法には、器具や手順、蒸溜を重ねる回数や熟成の仕方など複雑な要素が絡む。そこでさらに変化に富んだ風味が生み出されることはいうまでもない。
地域的な蒸溜酒のおもなもの
◆アクアビット
地域:北欧 主原料:ジャガイモ
キャラウェイはじめハーブ・スパイスで香味づけ。
◆コルン
地域:ドイツ 主原料:小麦、ライ麦など
香味づけをしないのが特徴。
◆カシャーサ(ピンガ)
地域:ブラジル 主原料:サトウキビ
◆アラック
地域:東南アジア~中近東 主原料:ナツメヤシ、ココヤシなど
◆白酒(パイチュウ)
地域:中国 主原料:コーリャン、もち米など
◆焼酎
地域:日本 主原料:芋、米、麦など
ここで問題になってくるのが、リキュールとの区別だ。蒸溜酒に香味づけをする場合、そのエキス分が一定量以上のものはリキュールと呼ばれる。日本の酒税法では、リキュール類は混成酒類になり、蒸溜酒とは呼ばない。
従って、次のようなものは、その国を代表する酒で、蒸溜酒をもとに造られるが、リキュール類に分類されている。
◆ウゾ
地域:ギリシャ
アニスはじめハーブ・スパイスで香味づけ。
◆ラク
地域:トルコ
アニスなどハーブ・スパイスで香味づけ。
◆パスティス
地域:フランス
アニス、リコリスなどハーブ・スパイスで香味づけ。
リキュールの基礎知識
リキュールとは、ベースとなる蒸溜酒に、香味成分、糖類などを加えたもの。その歴史は古く、古代ギリシャ時代にヒポクラテスがワインに薬草を漬け込んだ薬酒を造ったのが起源とされている。
中世になると、錬金術師たちによって、生命の水=Aquavitaeアクア・ヴィテと呼ばれる蒸溜酒が誕生。そこに薬草を溶かし込む薬酒が生まれた。ちなみにリキュールという名は、ラテン語で「溶け込ませる」という意味の liquefacereリケファセレ、あるいは「液」という意味のliquorリクオルが転じたものとされる。
その後、薬酒は修道院などで造られるようになり、様々な薬草や香草を用いた製法が発達。15世紀になって、飲みやすくするために、香りづけをしたり、糖分を加えたものが登場。これが今のリキュールへと発展した。
リキュールの定義と分類
日本の酒税法におけるリキュール類は、「酒類と糖類等を原料としたものでエキス分が2度(2%)以上のもの(清酒、焼酎、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類、発泡酒、粉末酒などを除く)」と定められている。また、EUの法的な定義では、「リキュールはアルコール度数15度以上で、糖分を1リットルあたり100g以上含むもの」とされ、糖分が250g以上含まれるものは「クレーム・ド」(クレーム・ド・カシスは400g以上)と呼んでもよいという規定になっている。
香味づけの方法には、香味のもとになるハーブ・スパイス類、果実などの副原料を、主原料と一緒に蒸溜する方法(蒸溜法)、副原料をベースになる蒸溜酒に漬け込む方法(浸漬法)、抽出した香料を蒸溜酒に加える方法(エッセンス法)などがある。種類は多種多様だが、副原料の種類によって、薬草・香草系、果実系、ナッツ・種子系、それ以外の特殊系に分類される。
| 東京書籍 (著:上田 和男) 「洋酒手帳」 JLogosID : 8515655 |