ウオッカの基礎知識
歴史と概要
ロシアを代表するスピリッツで、帝政時代には皇帝にも愛されたといい、まさに国民酒として発展した。ただし起源は定かでなく、12世紀頃に農民の間で飲まれていた地酒説や、ポーランドでさらに古く発祥したという説もある。東欧から北欧にかけて広く造られており、ヨーロッパではウイスキー、ブランデーに肩を並べる蒸溜酒である。
当初はライ麦などを糖化・発酵・蒸溜させるだけだったが、19世紀初頭に白樺の活性炭を使い濾過する製法が、19世紀後半には連続式蒸溜器が導入されるなど技術革新が進んだ。また、トウモロコシやジャガイモが伝わり、これらも原料としたことから「クセが少なく、すっきりとした味わい」の今日のようなウオッカが完成したといわれる。
この酒が世界に広まるのは、1917年のロシア革命が契機。蒸溜所を経営していた白系ロシア人たちが、亡命先のフランスやアメリカでウオッカ造りを再開したことによる。特にアメリカは、禁酒法が解除された時期で、新たに出現したウオッカ人気が一気に高まる。併せてカクテルが流行したことで、ベースに合う酒としても好まれるようになった。現在では、本家ロシアを抑えて生産量世界一だ。また日本でも、ロシア革命を逃れた亡命ロシア人の手で製造が始まる。草分けメーカーはすでにないが、現在でも数社が国内で製造を行っている。
ちなみにこの酒は、古くはロシア語で「ジーズナヤ・ヴァダー (命の水)」と呼ばれた。この「ヴァダー」が「ウオッカ」に変化したのだ。
原料と製法
発祥の頃のウオッカはライ麦のほか糖蜜が原料だったようだが、やがて小麦、大麦、その他の穀物も使われるようになり、18世紀にはトウモロコシやジャガイモが加わる。さらに牛乳や果物、甜菜(ビート)、サトウキビなどを使用するものもあり、スピリッツの中では、日本の焼酎と同じく様々な個性を持つ酒として人気がある。種類としては、通常の工程で造られるレギュラー・タイプと、フルーツや草根木皮など様々な香りを加えたフレーバード・ウオッカに大別される。フレーバード・ウオッカは多種多彩で、最も有名なのがポーランドのズブロッカ草を香りづけにしたズブロッカ。このほか、りんごや梨の新芽、レモンの果皮、オレンジ、さらにはジンに不可欠なジュニパーベリー(ネズの実)やブランデーを香味づけに使うこともある。
さて製法だが、糖化・発酵・蒸溜までの過程はほかのスピリッツと大きな違いはないが、蒸溜で抽出したアルコールに水を加えて度数を40~60度にまで下げた後、白樺やアカシアの活性炭で濾過する工程が、ほかにはない特徴だ。濾過することによってまろやかな味わいが生まれるという。また、複数回の蒸溜や濾過を行うものも少なくない。多くは濾過後瓶詰めされるが、ドイツやポーランドなどでは蒸溜後に樫の樽で半年間熟成させるものもある。
アメリカをはじめ多くの国ではカクテル(スクリュー・ドライバー、ソルティ・ドッグなど)ベースとして親しまれるウオッカも、本家ロシアでは、冷やしてストレートで楽しむことが多い。
本書では、本家ロシア、世界一の消費量を誇るアメリカ、発祥地説もあるポーランド、同じく古い歴史を持つ北ヨーロッパ、それぞれのウオッカを紹介している。
余談ながら、2007年の日本ダービーでは64年ぶりに牝馬が優勝し話題を呼んだが、その馬名が「ウオッカ」。熱狂的な競馬ファンたちが、こぞってウオッカで祝杯を上げたとか……。
| 東京書籍 (著:上田 和男) 「洋酒手帳」 JLogosID : 8515626 |