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標準治療コラム > 腎・尿路・泌尿器

透析療法
【とうせきりょうほう】

Dialysis

[概 説]
 腎臓病、とくに慢性腎機能障害をきたす病気の多くは、現在の医学ではなかなか特効薬的な治療法もなく、何だか恐ろしい病気だという印象をもつ方もいるかと思います。確かに腎臓病にはそういう一面はあり、腎臓病そのものをすっかり治す方法がないことも多いのは事実です。
 しかしここで、ちょっと見方を変えてみましょう。他の主要臓器、例えば脳、心臓、肺、肝臓の機能を完全に失ったことを考えて下さい。そのままでは生命の維持は絶対に不可能です。腎臓の機能を完全に失っても同様に、そのままではすぐに命を落としてしまいます。ただし、ここが腎臓だけが他の主要臓器と異なる点なのですが、それを失っては確実に死んでしまう重要な機能が、高度な医療技術で代償でき、その治療を基本的には誰もが受けることができるのです。その治療が人工腎臓、すなわち透析といわれるものです。わが国で透析治療の保険適用が開始されたのは、1967(昭和42)年のことで、当然のことながらその頃の透析は、技術的に目覚ましい進歩をした現在よりずっと遅れたものでした。透析療法が受けられなかった時代は、腎臓病で顔色が悪くなったり、むくんだり、食欲が落ちてくると、およそ1~2カ月のうちに尿毒症で亡くなっていたのです。
 さて、人工腎臓という意味合いをもつ透析療法ですが、実は腎臓の数ある機能のうち全部を代償できるわけではありません。簡単にいうと、「腎臓の機能のうち、体液の量と組成の調節を、腎臓本来の働きにだいぶ近いところまで代償している」というのが正確なところでしょう。また、腎臓そのものは24時間常に機能していますが、後に述べる血液透析という最も一般的な透析の方法では、通常週に3日、各々4時間、週12時間程度だけ行われます。透析治療を受けている患者さんに伴う医学的問題の多くは、このように、いかに最先端の透析療法とはいえ、本来の腎臓の機能を完全に再現できないということが原因になっていることが多いといえます。ともあれ、透析療法というのは、それを受ける患者さんにとっていろいろ大変な苦労もありますが、それを受けないと生命の維持が困難な末期の腎機能障害の患者さんが生存するためには、移植以外の唯一の方法なのです。

[血液透析と腹膜透析]
 透析療法は急性の腎機能障害のために、一時的に行う場合もありますが、多くは慢性の腎機能障害のために、ずっと(腎移植を受けない限りは生涯通して)行うものです。透析には血液透析と腹膜透析の2種類の方法があります。
 血液透析は、血液を、特殊な樹脂膜がミクロの繊維状に中に敷き詰められているダイアライザーと呼ばれる筒の中に通し、その樹脂膜で隔てられた透析液と呼ばれる特別な組成の溶液との間で、老廃物、電解質、酸とアルカリのバランスのやりとりをしたり、水分の除去を行う方法です。通常1回につき4時間前後、週に3回行います。血液透析に必要な血液量は、普通に注射針を刺せる静脈からでは十分得られないので、慢性透析を受ける患者さんは、静脈の血流量を増やすために、通常前腕の動脈と静脈とを短絡・吻合(ふんごう)する手術を受けることになります。血管に施したそのような細工を「シャント」と呼びます。
 腹膜透析は、CAPD(持続的携行式腹膜透析)と呼ばれる方式で通常行われます。血液透析のダイアライザーにあたる膜が、患者さん自身の腹膜になるのです。手術によって腹膜透析用の特殊な管(カテーテル)を挿入・留置し、そのカテーテルから腹膜透析用組成の溶液を注入、4~5時間貯留した後に廃液します。溶液の注入、廃液を通常1日4~5回、毎日行います。
 腹膜透析の主な利点は、患者さん自身で操作すれば、とくに問題ない場合、医療機関の受診は2週間に1度程度ですむこと、それから透析を長時間かけて徐々に行うので、心臓や血圧に及ぼす影響が少なくてすむ点です。主な欠点は、カテーテルの清潔操作を慎重に行わないと細菌感染による腹膜炎を起こすことです。その他、感染以外の原因による腹膜炎、腹膜の機能が自然経過によって低下するなどの理由で、腹膜透析は10年以上の長期に継続できる例が非常に少ないのも事実です。わが国では血液透析を実施する医療機関の連携がよいので、あらかじめ観光や出張で旅行する先の医療機関に依頼して血液透析を受けることに関して、比較的融通が利くのは患者さんにとってはありがたいことでしょう。
 それぞれに利点、欠点がありますが、わが国では腹膜透析よりも血液透析を受けている人のほうが圧倒的に多いです。

合併症
 透析患者さんに起こりうる合併症はいろいろありますが、ここでは主なものに限定して記載します。
 腎臓の機能のうち、造血ホルモンのエリスロポエチンの産生、ビタミンDの活性化というのが、透析でも代償できないものの代表的な機能です。ですから透析患者さんには腎性貧血、腎性骨異栄養症と呼ばれる骨形成不全が起こりえます。それらの治療のため、近年合成・大量生産が可能になったエリスロポエチンの注射、活性化ビタミンDの注射または内服投与を行います。
 血液透析の場合、急な体液の組成の補正により頭痛、悪心(おしん:むかつきのこと)などを生じる不均衡症候群、血圧低下を起こすことがあります。血液透析の場合、とくに分子量の大きな物質の除去に限界があるので、長期透析患者さんには、アミロイドという物質が骨や関節に沈着して痛みなどが生じる、透析アミロイドーシスと呼ばれる問題が起こることがあります。腹膜透析に伴う合併症で最も頻度が高く、重要なのは腹膜炎です。

[予 後]
 現在、透析の技術や研究などが進んだ結果、糖尿病による腎不全を除くと、医師の生活指導をしっかり守り、他に大きな病気がない場合、透析患者さんでも平均余命より若干短いくらいまでの生命予後が期待できるといってよいかと思います。糖尿病性腎症による腎不全で透析に至った場合は、もちろんその人その人によって違いますが、いろいろな問題を合併することが多く、残念ながら糖尿病以外の原因による透析患者さんよりも、かなり生命予後が悪いのが実情です。 (雨宮哲朗




寺下医学事務所 (著:寺下 謙三)
「標準治療」
JLogosID : 5036589

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