ベーチェット病
【べーちぇっとびょう】
Behcet Disease
ベーチェットという人の名前に由来するこの疾患は、消化管(口腔内が最多)と外陰部の潰瘍、皮膚症状、眼症状、関節炎や血管炎などの症状を示す慢性再発性炎症性疾患です。発症には人種差・民族差が大きく、トルコを筆頭に日本、韓国、中国、中近東諸国、地中海沿岸諸国に好発することから、19世紀に東アジアと地中海を結ぶ貿易路にちなんで「silk road disease(シルクロード病)」といういい方をする場合もあります。
疾患そのものの記載はなんとヒポクラテス(紀元前460年生誕)の著書(流行病第III巻)にも記載があるようですが、1936年にトルコの皮膚科医であるHulusi Behcet教授により紹介されて以来、広く認められ得るようになりました。当初は男性に多い疾患であると記載されていましたが、これにも地域差を認め、中東諸国では男性に、日本や韓国では若干女性に多いとの報告があります。ただし、男性のほうが全般的に重症化しやすいという点は共通のようで、とくに眼症状に関して男性患者さんは注意しなければならないといえます。好発年齢は20~30歳代にあり、わが国の患者数は約2万人といわれています。
体質と環境の両方が発症に関係しています。体質として最も重要視されているものとして組織適合抗原(細胞表面に存在している移植に関連した抗原)であるHLA-B51があります。わが国においてベーチェット病患者での陽性率は55%であるのに対してベーチェット病でない人の頻度は15%程度です。HLA-B51を有する場合はそうでない場合と比較してわが国では6.7倍の発症危険率を有しますが、アメリカでは1.3倍とほとんど危険率の増加はないという結果です。体質としても日本とアメリカでは大きな差を認めています。
| 寺下医学事務所 (著:寺下 謙三) 「標準治療」 JLogosID : 5035258 |