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杉田玄白
雑学大全2

一七七一(明和八)年春、若狭国小浜藩の貧しい医者、杉田玄白は頭を痛めていた。同僚の中川淳庵から『ターヘル・アナトミア』というオランダ語の医学書を見せられたからだ。人体の骨格や内臓図が描かれたその書は、彼の学んだ日本や中国の医学書とはかなり異なるが、とにかく図が詳細だった。淳庵は、それを江戸に来たオランダ人から借り受けたといい、必要なら売ってもよいといわれていると告げた。欲しくてたまらないが、貧乏医者の玄白に手の出せる金額ではなかった。そこで、玄白の深い悩みを知った小浜藩士が、本当に役に立つ本なら……と力添えを約束した。藩士はそれを実行し藩主に代金を出すように進言してくれ、藩主は購入することに応じてくれた殿様に頼んでようやく手に入れた『ターヘル・アナトミア』だったが、玄白の悩みはなくならなかった。彼はオランダ語を学んだことがなかったのである。そんなとき、玄白は小塚原の刑場で解剖がおこなわれるという奉行所からの情報を耳にする。とにかく本を見ながら解剖に立ち会えば、少しは本への理解が深まる。そう考えて小塚原に赴いた玄白は、そこで同じ本を手にした前野良沢と出会う。翻訳本『解体新書』が胎動をはじめた瞬間だった。ほんの少しオランダ語を学んだ経験のある良沢と、まったくゼロからのスタートの玄白との手探りの翻訳は、四年の歳月をかけて、一七七四(安永三)年に完成した。この翻訳作業を記録した玄白の『蘭学事始』は、「一冊でも翻訳ができれば、大きな国益になるだろう」と記す。その一念が玄白に歴史に残る偉業を達成させたのだった。

  

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