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ウイスキーの基礎知識
洋酒手帳

歴史と概要

蒸溜器の発祥は紀元前3000年との説もあるほど古いが、この器具を使って穀類を原料とした蒸溜アルコールが製造されたのは、8〜9世紀のアラブ世界であったとされる。これがヨーロッパに渡り、本格的に蒸溜酒が造られるようになったのが12〜13世紀。薬として用いられたのが最初という。その後、様々な穀類を原料にすることで多種多彩な蒸溜酒が誕生するが、なかでも現在最も世界で愛されているのがウイスキーである。

さて、その発祥にはアイルランドとスコットランドの2説がある。アイルランドでは1172年に大麦を原料にした蒸溜酒がすでに飲まれていたようだが、文献として残っているのは1494年のスコットランド財務省文書が最古。どちらにしても、今日に至るまでウイスキー造りにおける世界の中心がこの2つの地であることに変わりはない。もっともウイスキーの名が定着するのは18世紀の初めのことだ。それまではラテン語で「命の水」(もともと薬だったため)を意味するアクアヴィテと呼ばれていたが、当時アイルランドやスコットランドで使われていたゲール語で「ウシュケ・ベーハ」(同じく命の水の意)と呼び始めたのだ。

1707年にスコットランドはイングランドと合併するが、この時代にはまだ、ウイスキーは無色透明だった。それが琥珀色をした芳香豊かな飲み物になったのは、1725年にフランスとの戦いの戦費調達を目的に、酒税が一気に十数倍に跳ね上がったことに起因する。以来100年間もその税率が続き、蒸溜所のなかには税を納めずに売りさばこうと密造するところが増えたという。密かな商売だから、蒸溜後しばらく隠し、頃合を見計らって出荷せざるを得ない。そのため樽に入れて保存していた結果、熟成が進み、あの独特な色合いが生まれたのだ。

とはいえ、ウイスキーが世界に広がるにはそれからしばらく年月がかかる。19世紀後半、フランスではワインやブランデーの原料であるぶどうがアブラムシの害によって壊滅的な打撃を受け、ほとんど生産できなくなった。そこで英国からウイスキーを輸入するようになり、これが世界に広がる端緒となった。

ところで現在、世界5大ウイスキーといわれるのが、スコッチ(スコットランド)、アイリッシュ(アイルランド)、アメリカン(アメリカ)、カナディアン(カナダ)、ジャパニーズ(日本)。アメリカは1776年に英国から独立するが、ウイスキー製造技術はすでに移民とともに伝わっており、また西部のケンタッキーに進出していた農民の間でもトウモロコシを原料にバーボン・ウイスキーが造られていたという。しかし1920年に施行された禁酒法が13年間も続き、多くの蒸溜所が閉鎖される。ただし秘密に営業する酒場の取り締まりは比較的緩やかだったため、その供給源として隣国カナダ(アメリカ同様、移民とともに技術が伝播)のウイスキーは飛躍、技術の向上と生産量の増大が一気に進んだ。日本にウイスキーが現れるのは幕末の開国以後であり、日本人の手による製造は1923年、寿屋(現サントリー)が京都・山崎に蒸溜所を設けたのが始まりだった。スコットランドに技術留学後帰国していた竹鶴政孝が製造の指揮をとり、竹鶴は後に退社しニッカウヰスキーを創始した。


原料と製法

ウイスキーは大麦やライ麦、小麦、トウモロコシを主原料として造られるものをいうが、現在ではライ麦は、カナディアン・ウイスキーで若干使用されている程度である。発芽した大麦(麦芽=モルト)に熱湯を加えて糖液を作り、これに酵母を加えて発酵させると、アルコール度数7%ほどのもろみ(ウォッシュと呼ばれる蒸溜原液)ができる(ここまでの工程はビール醸造とほぼ同じ)。ウイスキーにとって大麦は、日本酒や焼酎の麹と同じく糖化発酵の素材として欠かせない存在だ。ライ麦や小麦、トウモロコシが主原料の場合にも必ず大麦が用いられる。

もろみを蒸溜器にかけアルコール成分を一旦気化し冷やしたものがスピリッツと呼ばれる蒸溜酒だ。蒸溜酒は、醸造酒に比べてアルコール度数が高く、原酒は60〜70%に及ぶ。これを樽に詰めて熟成させ、最終的には加水し40%程度の商品として出荷される。

製造過程で重要な工程が蒸溜だ。濃度を高めるために複数回蒸溜するのが通常で、単式蒸溜器(ポットスチル)と連続式蒸溜器(パテントスチル)の2通りがある。単式蒸溜は、香味成分が多く含まれた蒸溜液を抽出するのが特徴で、連続式蒸溜は香味成分が少なく、口当たりがなめらかな蒸溜液を抽出するのに適している。

ウイスキーは、原料とこの蒸溜液をどう詰めるかで分類される。

まず、スコッチ・ウイスキーにおいては、原料に大麦麦芽(モルト)のみを使用しているものを「モルト・ウイスキー」と呼ぶ。そして、一つの蒸溜所で製造したモルト・ウイスキーのみを瓶詰めすると「シングルモルト・ウイスキー」となり、何カ所かのモルト・ウイスキーを合わせると「ヴァッテッドモルト・ウイスキー」となる。

一方、大麦以外の穀類も原料にしたものは「グレーン・ウイスキー」と呼ばれる。そして、このグレーン・ウイスキーとモルト・ウイスキーをブレンドしたものが「ブレンデッド・ウイスキー」となる。モルト・ウイスキーは単式蒸溜、グレーン・ウイスキーは連続式蒸溜が一般的である。

なお、アメリカン・ウイスキーにおいては、大麦が原料の51%以上を占めると「モルト・ウイスキー」と呼び、大麦だけを原料としているものは「シングルモルト・ウイスキー」と呼ぶので少しややこしくなってしまうのだが、アメリカン・ウイスキーの代表格と言えば「バーボン・ウイスキー」で、こちらはトウモロコシが主原料である。

さて、蒸溜した原酒の味わいをより高めるのが熟成。樽に詰め、長い年月をかけて荒々しい原酒をまろやかにする工程だ。最初は透明だったものが琥珀色に変化し、樽から溶け出した香味成分が加わる。5年で独特な色とまろやかさが生まれ、15年で完成に近づくといわれる。

本書ではこのウイスキーを5大産地ごとに紹介するが、本場スコッチは名門蒸溜所が多く、地域によって特徴が異なることから、ハイランド、スペイサイド、ローランドとキャンベルタウン、アイランズ、アイラと地域別に分け、またブレンデッドには秀逸銘柄が多いことから独立項目とした。


◆スコッチ Scotch
英国・スコットランド地方で製造されるウイスキーの総称で、ウイスキーの代名詞としてあまりに有名。以下のアイラまでの5つのエリアは世界的に知られる老舗蒸溜所が多く、モルト・ウイスキーの名産地として名高いが、ブレンデッド・ウイスキーも世界中で人気がある。

●ハイランド Highland
スコットランドの中央部に位置。蒸溜所数が多いうえ、最古の政府公認蒸溜所の一つが現存するなど、スコッチの中心地といえるエリアである。また、小規模で生産量が少なく希少銘柄と呼ばれるものが多いのも特徴だ。

●スペイサイド Speyside
ハイランド地方の東北部。スペイ川流域に50を超える蒸溜所が集中。ここにも最古の政府公認蒸溜所の一つがあるほか、ウイスキーファン垂涎の蒸溜所が肩を並べている。

●ローランドとキャンベルタウン Lowland & Campbeltown
スコットランド南部。かつてはハイランドに劣らぬ人気を誇ったが、大量生産の結果、支持を失って衰退。現在は3つの蒸溜所が稼働し、いずれも評判は高い。ちなみにスプリングバンクは、ウイスキー生産地の名門の一つキャンベルタウンで造られる。

●アイランズ Islands
ハイランド地方の北西に浮かぶ5つの島の総称。蒸溜所は6カ所あり、それぞれ個性的なウイスキーを製造している。

●アイラ Islay
スコットランドの西岸沖にあるアイラ島には8カ所の蒸溜所がある。スコッチの中でも特にスモーキーで香味の強いウイスキーが生産される土地として知られる。

●ブレンデッド Blended
バランタイン、シーバス リーガルなど日本でおなじみ、かつ人気のあるウイスキーの多くが、このブレンデッド銘柄。いわば「いいとこ取り」なだけに人気も当然か。
スコッチだけでなく、モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーをブレンドすれば、一般的にブレンデッド・ウイスキーと呼ぶ。

◆アイリッシュ Irish
スコットランドと並びウイスキー発祥地とされるアイルランド。この島国の北部が英国領・北アイルランドで、南部はアイルランド共和国だ。どちらの地で生産されても、一般的にアイリッシュ・ウイスキーと呼ぶ。

◆アメリカン American
代表的なのが、ケンタッキー州で発祥したトウモロコシを主原料にするバーボン・ウイスキー。大麦、小麦、ライ麦などが原料のウイスキーも造られるが、日本での人気はやはりバーボンだ。

◆カナディアン Canadian
カナダのウイスキーはブレンデッドが主流。風味の強いライ麦仕上げとマイルドなトウモロコシ仕上げをブレンドした、複雑な味わいで評価を得ている。

◆ジャパニーズ Japanese
5大産地の中で歴史はいちばん新しい。スコッチを手本にして出発したが、日本人の嗜好に合わせ、スモーキーさが抑えられているのが特徴。モルト・ウイスキーとブレンデッド・ウイスキーが主流。

  

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