| TPP JLogos |
【概要】
正式名称は、環太平洋経済連携協定または環太平洋パートナーシップ協定(英名Trans-Pacific Partnership)。アメリカやアジア、オセアニアなど太平洋地域の国々でつくる方向で協議されている自由貿易協定のことで、「ヒト」「モノ」「サービス」などの往来を円滑にして経済活動を盛んにするのが狙い。2006年5月にシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリで発効した「P4協定」を拡大する形で、米国がTPPによる自由貿易圏を構想。10年以降、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加交渉中で、物品市場の関税減免や政府調達のルール策定、知的財産の保護など20を超える分野が対象に協議されている。米と自由貿易協定を結ぶカナダ、メキシコの交渉参加も決まり、構想が実現する可能性が高まっている。
日本は菅直人政権時代の2010年から参加を本格的に検討。製造業の輸出拡大の好機とみる財界では経団連などが積極的な一方で、農業界は、国内の農産物が輸入品に市場を奪われることへの警戒から反対意見が根強い。与野党や省庁、有識者の間でも賛否が分かれている中、野田佳彦首相は12年11月10日、民主党の次期衆院選マニフェストにTPP交渉参加を明記する意向を表明。一時は13年中とみられた衆院解散・総選挙が12年中に行われるシナリオが急浮上している。
【解説】
TPPは、かつての郵政民営化と同様、賛成派と反対派が真っ向からぶつかっている。霞が関でもTPP参加時の試算がバラバラで、内閣府はGDP(国内総生産)が2.7兆円増と公表。経産省は、不参加だった場合に2020年までに10.5兆円が損失すると打ち出すことで前向きなのに対し、農水省は関税撤廃により、農林水産業の国内生産額が約4.5兆円と試算している(10年公表時、12年の再試算では3.4兆円に減額)。
有識者の見方も様々で、推進派では、経済学者の池田信夫氏が「人や金の行き来が自由になれば、世界の成長エンジンになっているアジアから日本も利益を得ることができる」と主張(11年10月13日ニューズウィーク日本版「エコノMIX異論正論」)。これに対し、反対派の中野剛志・京大准教授は、「安い食料の輸入が増えたら国内の農業や食品産業で競争が激化し、デフレをもっとひどくする」などと異論を唱えている(11年10月21日、NHK「視点・論点」)。また、TPPに中国、韓国、インドが入らないことから、「中国との貿易は阻害される」(野口悠紀雄・早大ファイナンス総合研究所顧問)といった、米国によるブロック経済圏形成という論評もある。
野田首相の交渉参加の公約表明は「TPPに慎重な自民党との違いを打ち出し、改革色を明確にする作戦」(12年11月10日、日経新聞)。民主、自民両党とも党内に反対派が渦巻き、注目の「第3極」もまた、日本維新の会とみんなの党は賛成で、石原新党の母体となる「たちあがれ日本」は難色、小沢一郎氏の「国民の生活が第一」は反対と足並みが乱れている。前述の池田氏が「TPPは、政策を軸にした政界再編の格好のテーマ」と指摘するように(12年8月2日、JBプレス)、解散・総選挙だけでなく、政党流動化の引き金になる可能性もある。