お歯黒
【東京雑学研究会編】
§お歯黒で見分けた、できる夜・できない夜
明治時代の初期あたりまで、既婚女性はお歯黒をつけ、眉を抜いていて、夫がいる身であることを示していた。現代から考えると奇怪としかいいようのない習慣で、当時、横浜や長崎にやってきた外国人たちも、既婚女性たちの怪異な姿には驚いていたという。
今も伝えられる川柳に「女房のはげた歯でねるさせぬ晩」というものがある。
これによると、既婚女性でもたまにはお歯黒をはげたままにしているときもあったようだ。つまり生理の日はお歯黒をはげたままにして、夫にそのことを知らせ、セックスを拒んでいた、ということらしい。
夫に知らせたければ言葉で知らせればよさそうなものだが、そこは江戸時代の女性の奥床しさというものだろうか。
お歯黒は、お茶や米の研ぎ汁の中に古釘や折れ釘などの鉄くずをいれて作った。艶をよくするために酢、酒、飴を混ぜることもあった。毎日、温めたお歯黒と五倍子粉をまぜるか、あるいは交互に筆で歯に塗り付けていた。
女性がはじめてお歯黒をつけるのは婚礼の直前直後か三日目の里帰りのときなどが多かったと伝えられている。女性の成人祝いを「鉄漿つけ祝い」と呼ぶ地方もある。鉄漿とはもちろんお歯黒のことだ。
はじめてお歯黒をつけるときは「鉄漿付け親」「筆親」などと言われる女性あるいは夫婦との間に、疑似親子のような関係を結ぶ習慣もあったという。
| 東京書籍 (著:東京雑学研究会) 「雑学大全」 JLogosID : 12670137 |