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標準治療コラム > 婦人科

淋病
【りんびょう】

Gonorrhea

 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)によっておこる感染症です。クラミジア感染症とともに頻度の高い性感染症です。淋菌は非常にデリケートで、温度変化に弱く、通常の環境では生きることができません。そのため淋病は、性行為以外でのヒトからヒトへの感染はないと考えられています。
 男性では排尿痛、黄白色膿性の多量の分泌物など、非常に特徴的な尿道炎の症状があらわれますが、女性の子宮頸管炎では必ずしも症状がはっきりしません。潜伏期は2~7日と考えられていますが、女性では無症状で経過することが多くはっきりしません。感染が子宮頸管から奥に広がると、子宮内膜炎、付属器炎(卵管炎、卵巣炎)、骨盤腹膜炎(比較的下腹部に限局した腹膜炎)になります。これらの感染が拡大した病状では一般に発熱や強い下腹部痛があらわれます。無治療であったり、慢性化したりすると子宮外妊娠や不妊症の原因になります。さらに感染の範囲が拡大すると肝周囲炎を起こします。腹腔内の腹水の循環の関係で右上腹部に炎症、癒着を起こしやすいのですが、激症の腹膜炎を起こす場合もあります。
 また、頸管炎がある場合に、産道での感染によって新生児に淋菌性の結膜炎を発症する場合があります。頸管炎から付属器炎、骨盤腹膜炎、そして肝周囲炎という淋菌の感染の広がりかたはクラミジアのそれによく似ています。また、同時の感染(混合感染)もあると考えられています。
 検査は淋菌を検出することです。分泌物や膿を検査に提出します。菌を培養して特定する検査と淋菌の遺伝子を検出する検査(核酸同定検査)とがあります。
 かつて淋病の治療に用いられていた抗生物質が効きにくい菌、つまり耐性菌が増えていることが治療上の大きな問題になっています。古くはペニシリンあるいはセフェム系抗生物質がよく効くとされていましたが、現在では80~90%の菌は耐性菌といわれています。中途半端な治療は病気が治りにくくなる上に耐性菌を増やしてしまう原因にもなります。このため、淋病が疑われた場合には、菌を検出する検査だけではなく、どの抗生物質が有効かを同時に調べる薬剤感受性試験を行い、有効な抗生物質をきちんと選択して、徹底して治療すべきだと考えられています。
 耐性菌の問題から治療が難しい場合もありますが、現在でも有効な場合の多い治療を2つ示します。

・ロセフィン  1回1.0g、1日1~2回、1~7日間 静脈注射
 治療期間は重症度に合わせて考えます。

・ジスロマック  1回2g 1回 内服
 ジスロマックはアジスロマイシンという成分の抗生物質ですが、クラミジア感染症に効果を発揮します。高濃度では淋菌にも有効です。 (片瀬功芳




寺下医学事務所 (著:寺下 謙三)
「標準治療」
JLogosID : 5036620

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