そばの色香
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【東京-五つ星の蕎麦】 コラム > そばの愉しみ
そばのいいのは、秋深くから冬にかけてだろう。新そばのころは、昔からそば好きには嬉しい時節だった。いまや科学技術の進歩の恩恵は、そばの世界にももたらされた。玄そば(殻のついたままのそば)を低温恒湿倉庫できちんと保存することにより、私たちは、香り高いそばを一年中味わえるようになった。
美味しいそばの条件に「三たて」というのがある。「挽きたて、打ちたて、茹でたて」である。
茹で上がったそばの味は淡いが、艶があり、そばの角が立って瑞々しく、殻の直ぐ下にある香りが活きている。しかし、時がたつにつれて、艶、香り、腰、喉越し、味が、急速に失われてゆくのだ。
だから、そばの食べ方の作法には道理がある。そばがあれほど長いのも、堅すぎてはいけないのにも、道理がある。箸で、すうっと持ち上げ、端を僅かにつゆに浸し、すすり込む。そばが喉元を通りすぎると、ほのかな後鼻香が戻ってくる。うどんにはあり得ない、完全にはしなやかならざる強張り、それにかすかなざらつきが、そばの、えもいわれぬ感触を、口に喉に持続させる。と、突如、甘辛いつゆが、きりっと舌に響き、いい出し汁の味わいが充実感となって、余韻をかもす。この階調とリズムこそ、江戸っ子という都会人が、時を費やして練り上げてきた美意識ではなかろうか。
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【この辞典の書籍版説明】
「東京 五つ星の蕎麦」見田盛夫/選 |
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並木藪蕎麦、巴町砂場、神田まつやなど伝統の技が味わえる名代の老舗から、進化し洗練された蕎麦でたちまち有名となった新鋭店まで、都内と近県の118の名店を料理批評家・見田盛夫が厳選。蕎麦の基礎知識や全国の名店217軒の情報も付いた、蕎麦好きのバイブル。 |
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出版社:
東京-五つ星の蕎麦[link] |