魚④
【東京雑学研究会編】
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れっきとした魚類なのに、水の中より陸の上を好むおかしな魚がトビハゼである。しかもトビハゼは木に登ることもできる。
スズキ目ハゼ科のトビハゼは、水陸両生で、泥の多い岸辺や干潟に生息している。干潟を這い回る魚としてはムツゴロウが有名だが、トビハゼはムツゴロウよりも、さらに陸生になじんでいるのである。
ふつう、魚はエラ呼吸しているが、トビハゼは、水中ではエラ呼吸しつつ、陸上では口に含んだ水分をエラに送って呼吸をするという器用さを持っている。
また、トビハゼは皮膚呼吸も行っている。トビハゼには、空気を遮断するような厚いウロコはなく、皮のすぐ下にある血管で、直接空中から酸素を取り入れることができるのである。
このように、トビハゼは、水陸両用の呼吸機能を持っているのだが、陸上での生活を好み、ほとんど水の中には入らない。
というのも、エラ呼吸で取り入れる酸素より、皮膚呼吸で取り入れる酸素のほうが多いため、あまり長く水中にいると、苦しくなってしまうのである。満潮時になると、水中の穴に閉じこもってじっとしているが、それもしかたなくという感じで、干潟の上にあるヨシの茎や、船の残骸、流木などにくっついて、ずっと水に入らないものもいるほどである。
しかし、手も足もない魚が、どうやって陸の上を移動するのだろうか?
トビハゼの胸ビレは大きく、付け根の筋肉も、体の重みを支えられるほど発達している。この胸ビレを両手のように器用に使って、自由に動き回るのである。
左右を同時に動かして素早く移動し、交互に動かしてゆっくり歩いたり、ぴょんぴょん跳ねることもできる。引き潮になると、干潟の上を跳びながら、エサとなるカニやゴカイを探している。
また、ハゼの仲間は、腹ビレが吸盤のような役目をするので、胸ビレと腹ビレを使って、何かに垂直にくっつくこともできる。満ち潮になって、天敵の魚たちがやってくると、この能力を使って、水辺の岩や木の上に登り、難を逃れるのである。
トビハゼは、本州中部以南の各地に生息しており、東京近郊でも見ることができる。頭の上に突き出した目を、左右別々に動かしつつ這い回る姿は、ユーモラスである。冬期や、産卵のときは穴の中で過ごすが、それ以外のときは巣を作らず、干潟の上を動き回っている。
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