イスラム暦
【いすらむれき】
【暦の雑学事典】 3章 暦の進化史 >
◆「ラマダーンに立ちのぼる新月」の意味
柳の葉のように細く美しい眉のことを中国では「柳眉」と呼んだが、イスラム世界では昔から、「ラマダーンに立ちのぼる新月のごとし」と形容される。ラマダーンとはイスラム暦の第九月のことである。イスラム教においてはラマダーンは神聖な断食月として定められていて、日の出から日の入りまで、病人、幼児、妊婦などを除き、いっさいの飲食が禁じられている。
ラマダーンの最終日の日没後、西の空に生まれたばかりの新月がみえると、第一〇月シャッワールが始まる(イスラム世界では日没が一日の始まり)。しかも、シャッワールの一日から三日にかけては、イスラム教の二大祭(イード)の一つであるイード・アル・フィトルが盛大に祝われる。「ラマダーンに立ちのぼる新月」というのは、辛く苦しい断食の終了と同時に、祭の開始を意味する二重の喜びの表現である。美女を前にして新月のような眉といっただけでは、それこそ「月並み」な形容になってしまうわけだ。
◆太陰暦では月の満ち欠けがカレンダーがわりになるが……
イスラム暦を制定したのは、預言者ムハンマド(マホメット)である。メッカで迫害を受けたムハンマドは、七〇余人の信者(ムスリム)とその家族を率いてメディナに移住(ヒジュラ)して、そこで初の教団国家を建設した。ムハンマドはメディナ到着の六二二年(西暦)をイスラム暦の紀元元年と定めた。このためイスラム暦はヒジュラ(太陰)暦とも呼ばれる。
イスラム暦は純粋な太陰暦である。月が地球を一周するのに要する時間、つまり一朔望月は約二九・五日なので、イスラム暦では奇数月を大の月(三〇日)、偶数月を小の月(二九日)として、月の満ち欠けを暦と一致させた。夜空の月がカレンダーがわりになる合理的な暦であるが、これでは一年が三五四日にしかならないので、一太陽年との間に一一日もの差が生まれてしまう。このため、神聖なラマダーン(断食月)やズー・アルヒッジャ(メッカへの巡礼月)が、真夏であったり真冬であったりする。ただ、これらは季節行事ではなく宗教的な意味をもつものだから、信者にとって違和感はないようだ。
また、宗教行事はイスラム暦に従うが、農業や地租徴収には不便なので、エジプトのコプト暦やイラン暦といった太陽暦も併用され、近代以降は新たにグレゴリオ暦も加わった。イスラム世界の暦はアラベスク模様のように多様である。
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【この辞典の書籍版説明】
「暦の雑学事典」吉岡 安之 |
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