漬物
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 生活 > 食べ物
漬物を「香の物」と呼ぶことがある。たくあんやぬか漬けには、確かに独特の匂いがあるが、浅漬けやしば漬など、ほとんど匂いのない物まで、「香の物」とされる。これは、どうしたわけだろう?
室町時代の武将の間で、茶の湯が流行したことは広く知られているが、「聞香」もこれに劣らぬ大きなブームであった。
これは、香木を焚いてその名を言い当てたり、いくつかの香木を合わせて焚くなどの優雅な遊びで、武将たちもこれを嗜んだ。
しかし、良い匂い、悪い匂いを問わず、嗅覚とはすぐに麻痺しやすいものであり、次から次へと出てくる香りを嗅いでいるうちに、だんだん感覚が鈍ってくる。
現代でも、香水を買うときには、試しに嗅いでみるものだが、一度にいくつもの香りをかいでも嗅覚が麻痺してわからなくなってしまうため、一度に嗅ぐのは、せいぜい二、三種類にしたほうがよいといわれている。
武将たちは、鈍ってきた嗅覚を正常に戻すために、香木を嗅ぐ合間合間に、漬物を食べた。中でも、大根の味噌漬けが多かったという。
香木と味噌漬けとは、珍妙な取り合わせに思えるが、そもそも味噌は発酵食品であるから、それ自体も匂いがある一方で、疲れた嗅覚を回復させる効果もあるとされた。味噌そのものが、「香」と呼ばれるほどであった。
「聞香のときに口にする物」が「香の物」となり、そのうちに、味噌漬けばかりでなく、漬物すべてが「香の物」と呼ばれるようになった。
つまり、「香の物」と呼ばれてはいても、漬物そのものの香りによる名前ではない。
漬物を、「おしんこ」「おこうこ」と呼ぶこともあるが、これも「お新香」「お香々」という意味である。
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【この辞典の書籍版説明】
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