ポスト・イット
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【雑学科学読本 身のまわりのモノの技術vol.2】 実用アイテムに見るモノの技術 >
「付箋」「粘着メモ」などという名称もあるが、ポスト・イットと呼んだほうが通じやすいかもしれない。アメリカの3M(スリーエム)社が最初に開発した商品の名である。このポスト・イットに用いられている糊(のり)の発見エピソードは有名で、かつ興味深い。それは次の通りだ。ある日、3M社の研究室ではいつものように強い接着剤を作る研究をしていた。そして偶然、意図に反して剥(は)がれやすい糊ができてしまった。不思議に思って調べると、接着剤の分子が球状になって均一に分散していた。接着剤の分子が球形となって整然と並べば、接着したり剥がせたりする糊になることが発見されたのである。当時、この接着剤をどう商品化すべきか、誰も案が浮かばなかった。それから5年後、教会聖歌隊の一員でもあった3Mのある研究員は、賛美歌を歌っている途中、歌集にはさんでいたしおりを落とした。このとき、「貼って剥がせる用紙があると便利だ」と閃(ひらめ)いた──これがポスト・イット誕生の経過である。1974年の話だ。さて、このエピソードにあるように、付箋の糊は接着剤分子が球形となって均一に並んだものだ。貼る前には球状のために接着面が少なく、くっつきにくい。ところが、貼るために指で押さえると、球形は変形して接着面が広がり、くっつきやすくなる。さらに、それを引き剥がすと、糊の分子は元の球状に戻り、粘着力が落ちて剥がれやすくなる。この繰り返しで、何度も「ついたり剥がれたり」する糊になるのだ。この糊のアイデアは、文具とはまったく違う世界でも人気を得ている。整髪料の成分としての役割である。整髪料には「固定」「アレンジ」という二つの矛盾する要素が求められる。固定しないと髪はまとまらないが、アレンジするには固定されては困る。そこで、化粧品メーカーの資生堂は、ポスト・イットのように髪をまとめる方法を思いついた。付箋のように適度な粘着性があり、自在なアレンジが繰り返し可能な整髪料を開発したのである。
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【この辞典の書籍版説明】
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術vol.2」涌井良幸・涌井貞美 |
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