徳川家光②
【とくがわいえみつ】
【日本史の雑学事典】 第7章 愛と憎しみの巻 > 江戸時代
■11 大奥に夜ごと出没する妖怪の正体は?…将軍が慌てた「夜ばい」の何とも切ない結末
18世紀に真言宗の僧侶によって書かれた『明良洪範』という書物にこんな話がある。
大奥の女たちが、深夜、化け物がうろつき回るといううわさをし始めた。次第に目撃者も多くなり、怪物は般若のような顔をしているという。
うわさは、3代将軍・徳川家光の生母・崇源院の耳にまで届いた。
崇源院は「それは妖怪でも鬼でもない。きっと、男が女を慕って通っているのだ」と言った。
この言葉にドキリとしたのが家光だ。なぜなら、怪物の正体が自分だからである。母の指摘どおり、身分がばれぬように面をつけ、女のもとに通っていたのである。相手は、母に仕える侍女だった。
崇源院は、気性が荒いうえに嫉妬深く、夫の2代将軍・秀忠が孕ませた側室の子を堕胎させて平然としている女性である。ゆえに家光は恐ろしくなり、ピタリと夜ばいを止めた。
ところが、例の侍女が妊娠してしまったのだ。さっそく大奥で犯人捜しが始まった。もし自分の仕業と知れたら面目は丸潰れだ。家光は窮地に立たされた。そのとき、小姓の伊丹権六が進み出て、「例の般若面をお貸しください。私が身代わりとなって、大奥に忍び込みましょう」と申し出たのである。家光は悩んだ。捕まれば死罪は免れない。しかし、ついに面を渡してしまう。
その夜、権六は面をつけて大奥に入り、わざと警備の者に捕縛された。
権六は、罪を得て磔にされた。妊娠した女も、武蔵深谷で火あぶりの刑に附された。しかし、2人共、家光のことは口外しなかったという。
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【この辞典の書籍版説明】
「日本史の雑学事典」河合敦 |
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歴史は無限の逸話の宝箱。史実の流れに紛れて見逃しそうな話の中には、オドロキのエピソードがいっぱいある。愛あり、欲あり、謎あり、恐怖あり、理由(わけ)もあり…。学校の先生では教えてくれない日本史の奥深い楽しさ、おもしろさが思う存分楽しめる本。 |
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