ペンギン①
【東京雑学研究会編】
【雑学大全】 生物の不思議 > 鳥類
体長八〇~一〇〇センチと、ペンギンの中で最大の大きさを誇るのが、南極大陸とその周辺に生息するコウテイペンギンである。
コウテイペンギンの繁殖期は、三~四月頃である。この時期に繁殖地で交尾をしてから、夫婦の過酷な子育てが始まる。
まずは雌であるが、五~六月に産卵を終えるまで、エサを捕りに行けず絶食している。南半球にある南極では、この時期が冬場であるため、エサ場となる海面は、氷に隔てられた遠い彼方なのである。
やっと産卵を終えた雌は、すぐに卵を雄に任せて、海に向かう。エサ場まで、ときには一二〇キロもの旅になる。
卵は、一組の夫婦に一個だけで、残った雄は、足と股間のヒダの中に卵を入れて、直立したまま温める。股間のヒダは袋状になっており、「抱卵斑」と呼ばれている。
この時期は、気温がマイナス五〇度になることも珍しくない。コウテイペンギンには、巣を作る習性はない。雄たちは、ときには五〇〇〇羽もの大集団となって身を寄せ合い、ブリザードの吹き荒れる中で寒さをしのぐ。だが、ただ固まっているだけではない。抱卵したままじりっじりっと移動し、暖かい内側に立つ者と、風が直接当たる外側に立つ者が、入れ替わっているのである。これも、自然の知恵であろう。
ヒナがかえるまでの約九週間、雄は全く食べ物をとらず、ときどき氷を口にして、水分を補給するだけである。
ようやくヒナがかえる頃、海でたっぷり栄養をつけた雌が帰ってくる。胃の中には、ヒナへ与えるエサが入っている。コウテイペンギンは、胃の中に、体重の二〇%にも及ぶエサを入れて運ぶことができるのである。
雌の帰りが遅れると、雄は、自分の食道の壁を溶かして、口移しでヒナに与える。これは、「ペンギンミルク」と呼ばれ、脂肪分に富んだエサになる。
戻ってきた雌と交替した雄は、やっと自分のエサをとるために、海に向かう。海にたどり着くまで、絶食は約一〇〇日間にも及び、体重は通常の半分近くにまで減っている。
飢えを満たした雄は、雌と同じように、ヒナのエサを運んで、繁殖地に戻る。その後、夫婦は、二~三週間交替で、海と繁殖地を往復して子育てをする。夏になって、海岸との距離が近くなると、コウテイペンギンは、一家そろって海岸に戻って来る。
コウテイペンギンが、わざわざ過酷な冬に産卵や子育てをするのは、ヒナの独り立ちの時期を夏にするためである。夏ならば、成長過程の未熟なヒナでも、自力でエサを捕りやすいのである。
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